10年前の出来事
下記の記事、3連休前となっていますが、9月23日の休みの前だと思います。またF氏とは藤巻氏でしょうか。
10年前の出来事
そろそろ出て来ていいですか(笑)?
諸事情により、現時点では今回の件はコメントしにくいので。
10年前に何があったか、書いておく。
ちょうど10年前、9月の3連休前の金曜日の夕方。
当時私は、デリバティブのマーケターだった。
マーケターというのは、デリバティブ商品を開発して、営業に営業したり直接営業したり。
そして約定の際には、リスクポジションを社内でヘッジしにいく、というトレーダーの仕事と一部重複する仕事。
当時はアジア危機、ロシア危機が金融市場を襲い。
日本の金融機関が発行した資本性証券が、70円とか80円とかで取引されていて。
カレンシーベーシスも、超ワイドで。
ジャパンプレミアム、という単語が、新聞記事に踊っていた。
そんな相場でも、連休を控えて若干浮かれ気味に同僚と雑談をしていた7時過ぎ。
東京で一番偉い外人がうちのチームに来て、「絶対に誰一人帰らず、待機せよ。理由は言えない」と言い残して消えた。
これから飲みに出かけよう、と思っていたのに、とみんな文句タラタラだったが。
それなりに心当たるふしがあったので、会議室か何かに隔離されて待機となった。
退屈し始めた、ちょうどその頃。
「今からしばらく後に、エクセルスプレッドシートがEmailで届く。指示はそれから出す」と連絡が入り。
間もなく、1通のメールが我々のチームに転送されてきた。
転送元のメールアドレスは、xxxx@LTCM.com。
ああ、やっぱり、と思ったが。
エクセルシートの中身は、LTCMが持っていた金利商品すべてのポジションが記載されたポジションシートだった。
すべての通貨、すべての金利商品。
国債から、債券先物から、短期金利先物から、スワップから、オプションから、すべて。
指示は、このポジションシートからどれだけのネットポジションをLTCMが持っているか洗い出せ、というもの。
できるだけ急げ、と指示されて、必死になって作業をする。
当時の金利マーケットは、アービトラージの機会が徐々に少なくなりつつあったので。
LTCMが持っていたポジションは、薄利多売。
ということは、グロスのサイズは莫大で。
作業には、相当の時間が。
何でこの作業をしているのか、という疑問が当然にわいてくるのだが。
答えは一つで、今からLTCMが破綻して、その破綻処理を行うのであろう、ということはみんな暗黙の了解となっていた。
当時からLTCMの破綻の噂はあったので、ついに来るべきものが来たか、と思いつつ。
そんな作業を、NY時間の日中に、NYのデリバティブチームを使ってやれば。
市場中にLTCM破綻の噂が広まるのは当然で。
それを防ぐには、時差の都合上東京のチームが一番便利な存在で。
我々以外は、当然に帰宅していて静まりかえっているオフィスで。
東京の連休前の深夜、NYの金曜日の昼すぎになって。
ようやく作業が終わり。
LTCMのリスクポジションの概要がまとまって。
ようやく、仕事から解放された。
すぐには帰ることができず、守秘義務契約への署名とか、データの消去とか、いろいろ細かい作業をしているうちに、日付が変わってから相当の時間が経ち。
自分が歴史的な瞬間に立ち会っている、なんてことは、疲れた頭ではほとんど感じられず。
絶対にトレーディングデータを消去しろ、と何度も念を押されたが。
誘惑に負けて、ネットのポジションを記録したエクセルシートを、私のPCのハードディスクにセーブして帰った。
メールで自宅に送ったりすると絶対ばれそうだったから、ハードディスクだったらばれないだろう、と思い。
で、深夜、というより早朝に帰宅し、そのままニュースをつけると。
LTCM破綻と、複数の証券会社によるポジションの引き受けを報じる緊急報道が。
「そんなのあんたに言われなくても数時間前からわかってたよ」、と思いつつ。
世界で最も早く、そのニュースを知り得た一人であったことに、思いを馳せる間もなく。
そのままベッドに直行。
目覚めて、朝刊を見ると。
でかでかとLTCM破綻の記事が出ていて、ようやく自分が歴史の一部に立ち会ったことを、実感した。
後日談があって。
我々のチームが作ったポジションシートを、当時銀行の支店長だったFさん(最近マスコミでよく目にするFさんです)が目を通してしまい。
その後しばらく、Fさんは金利のトレーディングができなかった。
というのもある意味究極のインサイダー情報を見てしまったことになるわけで。
ほぞをかんで悔しがっていました。
だってマーケットはボラティリティが馬鹿高くて、トレーディングの機会には事欠かなかったので。
私が連休明けに会社に行くと。
いきなり、呼び出しが掛かり。
「なんでお前はポジションシートを完全に消去しなかったんだ」、と、大目玉を食らった。
ばれないだろうと思っていたのだが。
完全に私のPCをスキャンして、見つけ出したらしい。
それも、ネットワーク上のサーバーだけでなく、わざわざ個々のPCまで念入りにスキャンするなんて。
その時から、会社のネットワーク上にはプライバシーは存在しない、ということを肌身に感じて。
ちょっとやばそうなメールは、Bloombergを使うことにしたのだが。
ご存じない方もいらっしゃるかもしれないが。
Bloombergも会社にしっかり監視されているのですよ、実は。
そんなことが、10年前のちょうど今週ありました。
3連休、まるつぶれ。
土日にトレーディングしているところなんて見たの、初めてだよ。
それも、日曜日の23時59分までにChapter11申請しなければキャンセルになる、というContingentな取引。
結局ファイリングは月曜日になっちゃって。
トレーダーたちは、オレの週末返せ、って思ったはず。
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