2001-02-04

タイトル不明

ヴォルテールさま、ハント姉妹さま:
個人的には、貴金属の長期定額購入をなさるなら、金よりもプラチナを
お勧めしたいです。休日モードということで、少し詳しく述べてみます。

金というのは、不思議な商品です。いや、商品とは言えないのかもしれません。
なぜなら、金には、本当の意味での需要、つまり実需というものがあまり
存在しないからです。

この世に存在する「商品」とは、すべて消費されるために生産されています。
採掘された原油は精製され、燃料や石油化学製品原料として消費されます。
生産された穀物は、飼料や食料として消費されます。
非鉄金属も、繊維も、鉄鋼も、セメントも、紙も木も、すべて同じことです。
そして、消費という需要と、生産という供給のバランスするところで最終的な
価格が決まります。『需給に勝る材料無し』というのは商品界のことわざですが、
一時的に思惑で相場が動いても、結局のところは需給関係が価格を妥当なところへ
収斂させて行きます。

金以外の貴金属には、宝飾品としての需要以外に、それぞれ工業物資としての
重要な用途があります。
銀は写真感光剤や抗菌剤としての、プラチナやパラジウムは触媒や電極材料としての
需要が、総需要の半分以上を占めています。
ところが金には、そういった実需がほとんどありません。せいぜいメッキや歯科材料
程度のもので、「需要」の大部分は宝飾品・投資・退蔵需要です。
しかも金は化学的に安定な物質で、錆びたり腐ったりしません。
ソロモン王やミダス王の昔から、永久にそこに存在するのです。
これを言い替えますと、世界中の金鉱山から採掘される年間約4000トンの新産金の
かなりの部分が、地上在庫として毎年繰り越されて行くということです。

要するに、穀物は食べたら消滅します。石油は燃やせば消滅します。
しかし、金はあまり消滅せず、地下から掘り出された金が毎年どんどん地上に
あふれかえってくるのです。「不思議な商品」とは、そういう意味です。
ですから、はっきり言えば金価格は毎年下がるのが当然なのです。

そう、プロにとって、金市場は売るためにあるのです。永遠の戻り売り銘柄と言っても
過言ではありません。

ニクソンショック以後の現代は、もはや金本位制の時代ではなく、実物通貨としての
価値は幻想になっています。つまり、昔は、金の本質的価値に「通貨的側面」という
プレミアムが乗っていたわけですが、それが徐々に剥げ落ちてきているのです。
一挙に急落しないのは、それがいまなお消費者の「共同幻想」に支えられている
からに過ぎません。

産金会社や商社、貴金属商、宝飾品業者などは、こういうことは口が裂けても言いま
せんけど、彼ら自身は常に市場で売り方に立ち、大規模なヘッジ売りをしています。
南アや豪州の鉱山会社がCOMEXでどれだけの売り玉を持っているか、あるいは
純金積立を派手に広告している商社がTOCOMでどれだけの売り玉を持っているか、
調べてご覧になれば、おそらく驚かれることと思います。
彼らが必要としているのは、富の象徴というイメージに幻惑され、自分たちの売りに
喜んで買い向かってくれる消費者なのです。

金地金は、持っているだけでは利息を生みません。各国の中央銀行は、準備資産として
莫大な地金在庫を持っていますが、それを貸し出してリース料を取り、利息の代わりに
しています。
しかし、その貸し出された地金がフォワード売りを生み、ますます金価格の低迷を招く
結果になっています。近年、欧州の中央銀行が相次いで保有金の売却をしているのは、
通貨的側面というプレミアムが消滅した金を大量保有する意味が薄れているからです。

株に例えて言いますと、万年無配のくせに毎年定期的に公募増資をする会社の
ようなものです。大株主たちは、株を貸し出して貸株料を受け取っていますが、
需給悪に加え、その貸し株がまた慢性的な売り圧力となる悪循環で、株価は
いっこうに上がりません。
それでもおおかたの大株主たちは、昔からのしがらみもあるので、なかなか持ち株を
売りに出すまでには至っていません。しかし、それも限界に近づき、思い切りの良い
一部の大株主は、少しずつ持ち合い解消売りを出し始めています・・・
と、こんなイメージでしょうか。
この会社の株、みなさまなら買う気になりますか?