2004-12-03

My Trading Life (9)

実は僕はネットワーカーとしてのキャリアは結構長い。

アスキーネットの連日連夜の火を噴くような激しい論争も経験しているし、ニフティーサーブの、今となっては懐かしくもある、あの慇懃無礼な気持ち悪いお友達ごっこの世界も知ってる。
初めて会った人なのに何故か懐かしいというオフの感動も何度も味わったことがあるし、ネットでの消耗戦のようなバトルも経験済みだ。

インターネットの初期の頃は、皆が本名でメーリングリストしてたんだよ、fjだと、ちょっとおちゃらけ書くだけで怒られたんだよ、なあんて言っても、もう誰も信じてくれないだろうな。
Windows95登場以前の、インターネットがユニックスとマックユーザーの独壇場だった頃は、今とは全く違った世界がネットでは繰り広げられていたのだ。
モザイクの登場でウェブへのアクセスが画期的に簡単になった時の感動や、スタンフォード大学のサーバーで2人の学生が作ったyahooの使い勝手の良さに目を開くような驚きを覚えたことなど、もう遠い遠い昔々のお話だね。
それから、まだ10年もたっていないのに、インターネットの世界は激変したね。

2000年の初春、その頃には僕はネットへの関心はほとんどなくしていた。仕事関係でメールやファイルのやりとりをする以外、ネットにアクセスすることはほとんどなくなっていた。

しかし、新たに株式トレードの勉強をし直す上で、ネットというこの新しい情報ツールを使わない手はなかった。

まず、yahooのファイナンスのページから入る。株価の検索やチャートの表示も出来る上、銘柄登録なども出来て便利なものだと思った。感心感心。手書きでチャートを書いていた日々が嘘のようだ。
株価もほぼリアルタイムでチェックできる。素人とプロとの間の情報の差は、ほとんどなくなりつつあるなと強く感じた。

そしてやがて当然のように掲示板の世界にたどり着く。
ところが、これがもう、何が書いてるのか、まったくわけが分からない世界なんですね~。

新日鐵だの日立造船といったお馴染みの漢字名の銘柄は全く出てこない。聞いたことのないカタカナ銘柄ばかりで、それも暗号のようなもので書かれているので、いったい何という銘柄が話題になっているのかさえ見当もつかない。

SBと書かれていても、なんのことなのか分からない。まさかこれじゃないだろうなとは思いつつも、四季報でヱスビー食品を調べたりしたこともあったな。ピカチューが任天堂ではなく光通信だと分かった時は、いろいろ謎が一気に氷解して、嬉しかったものである。

それでも、暗闇に目がだんだん馴染んでいくように、掲示板に書かれている内容も徐々に分かってくる。言葉の表面的な意味だけではない。その背後にある買い煽りや売り煽りの意図、嫉妬や憎悪といった感情など、そうしたものを読み解いていくリテラシーが、数週間もネットにアクセスを続けるうちに、徐々に身についていった。

結局、情報としては、ほとんど参考にならないなと分かった。
ITバブルの最終段階の頃だ。ソフトバンクが大きく上がった日には、ホールダー達の恍惚状態の書き込みと、ノンホルダー達のやっかみに満ちた書き込みとが、埋め尽くされる。リーマン証券がソフトバンクの目標値を40万円と発表した日などは、ソフトバンクが40万円になったら自分の資産はいくらになるという、呆れるほど無邪気な皮算用を、ホルダー達は大真面目に語り合っていた。

岡目八目。そして、この熱狂と狂気の世界は僕には覚えがあった。そう、バブルの時とまったく同じなのだ。

とはいうものの、掲示板は、情報源としてはまったく頼りにはならないが、株価が人間の心理の集積だということを如実に示してくれていた。急騰した日の大引け後の掲示板全体が浮き足立つような高揚感、急落時の鬱々とした殺伐感。マーケットの株価の上下が人間の心理を動かし、そしてそれがさらに株価を動かしていく。
もちろんそうしたことは理屈の上では十分に理解していたつもりだった。しかし、ネットの掲示板の書き込みはそのことをはっきりと強く認識させてくれた。



3月の始め、ネット証券で信用の口座は簡単に解説ができた。電話で簡単な面接があっただけである。

さあ、まず何に手をつけよう。
ITバブルは弾けつつあり、ソフトバンクは20万円を手前にした水準から、一気に急降下していた。それにIT銘柄は、どれも単価が高すぎてまだまだ手が出なかった。
まずは手頃な低位株とハイテク株から一つずつ選んでみよう、それぞれなじみのある銘柄に手がけてみようと思った。
二つの銘柄が浮かんできた。90年代の10年間、自己流のうねり取りでなんとか利益を上げていた5714同和鉱業と、株式投資復活後、いきなり利益を上げることが出来た6925ウシオ電機である。
どちらの銘柄も、きれいなわかりやすい上昇トレンドを作りつつあった。

上昇しつつある平均線を睨みながら、平均線を大きく下がった時に買い、上に大きく乖離した時に利食うという作業を繰り返しながら、じりじり上値を追いつづけた。

いや、そんなに格好良くはなかったな。少し下がると、利益を吹き飛ばしてしまう恐怖で、まずは少しでも利食っておこうと慌てて利食い、上がり始めると今度は自分が取り残されるという恐怖から、押し目を待つこともせずに高値に飛びついてしまう。そうした冷静さを欠いたトレードをしていたので、なかなかうまくはいかなかった。

ばたばたと動かすよりも、じっとホールドしていた方がはるかに利益が大きかったのだと結局は知らされることになるのだが、それでも、3月の1ヶ月ほどで、資産は倍近くに増えた。
信用のテコの威力には驚かされた。
もっとも、この時点では、それが逆に動いた時の恐ろしさなど考えてもいなかったのだが。
そして、正しい方法で相場に取り組みつつあるという、これまでには感じたことのない手応えのようなものを感じつつあった。
4月のはじめ、資産は500万円に近づきつつあった。

しかし、こんなものはビギナーズラックのようなものだとは分かっていた。このまま浮かれていては、また、バブルの時と同じ失敗をしてしまうだろう。
空売りを交えないといけない。空売りの方法を学ばないといけないなと思った。
空売りに関する本は、いくつか読んでみたが、さらなる情報となると、やはりネットから集めるしかないだろう。
リンクを辿り、googleで検索をし、様々なサイトを調べていった。



そして、僕は「お気楽株式投資掲示板:売り専科」という掲示板に巡りあった。