1998-01-09

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

9.専門と区切り

 極端に言うと、描いたグラフを見て、ヒラメキでもいいから上がりそうだったら買えばいいんです。下がりそうだったら売ればいいんです。但し、3ケ月周期、3ケ月区切り、春・夏・秋・冬でも、大寒とか立春とかそういう区切りでもいいから3ケ月単位で見ていくのが前提です。それから、暇だったら先程の『大正12年以来、平年作の時は9月26日が底になる』と申し上げたことを確認してみて下さい。269日日が9月26日になりますが、これが底になる。その他いろいろな値動きの統計をとってみて下さい。
 この日本では、春・夏・秋・冬の変化が極めてはっきりしています。洋服生地や毛布の値段が高いのは、いつ頃だか知っていますか?秋ですよね。これから使う時に高くなる。安いのはお盆の8月頃です。スイカはどうですか?お盆の頃が安いですね。今、千疋屋(銀座にある店)にスイカを買いに行くと、2000円位すると思います。ひょっとすると、2000円では買えないかもしれませんね。黒豆、かすのこなどは、12月25日が一番高くて、26日になると安くなる。「それなら、26日になってから仕入れたらどうか」と考えてみると、それだと正月に間に合わない。机はどうですか?勉強の机は3月が高い。毎年決まっている。春・夏・秋・冬の季節的な変化というのがはっきりしている日本では、春・夏・秋・冬の変化が物の値段にすごく反映されます。小豆相揚も同じです。
 商品の話に戻りますけど、農産物の一次製品、或いは二次製品、または金属(貴金属と普通の金属)かおりますが、いずれも為替に左右される商品の場合には、とにかく為替の勉強をやってからおやり下さい。また、製造段階を川上、流通段階を川中、小売りを川下と言いますが、川中の段階で商社が強い支配力を持っている商品の場合には流通のことを勉強してからおやり下さい。そうじゃないと統計などに脳されちゃう。
 そして、自分の専門の商品(銘柄)をお持ち下さい。例えば、小豆専門。私のところの会員に、”銀”専門という人がいまして、銀の売買だけで生活している。銀の事についてちょっと触れますと、ウオーレン・バフェットっていう有名なアメリカ人がいる。この人は株ですごい富豪になった人で、この人の本が日本語訳で出ていますよね。あの人が今、世界の銀の、流通の20%を買い占めている。だから「銀に何かあるんじゃないか」と思われている。これは「通貨不安が出て来るだろう」という思惑がその一つだろうと思います。金は、通貨統合を控えてヨーロッパの中央銀行が保有余を売却するだろうとの見方から、オーストラリアの中央銀行や各国の中央銀行が保有余を売却しています。ところが、1オンス=300ドルから280ドル位まで下がった程度で、今、また30Oドル位まで戻ってしまった。
「中央銀行があれだけ金を売ったのに誰が買ったのか?
 「もしかしたら、ソロスじゃないのか」 
 大体、ソロスはあまり金をやりませんから、ソロスではないでしょうが、買った人が不明なんですね。それは、天候不安ではなくて、通貨不安を見込んで買っているんだと思っています。
 今年は、とにかく天候不安になると申し上げてきました。また、インドネシアや韓国などは、とにかく国が潰れそうなくらい借金が有るから財政事情が悪い。それから目本の場合、国民負担がとうとう市場最高の負担率になっている。島民に苛斂洙求(かれんちゆうきゆう)した江戸時代では、農民一揆が起きたんですが、その頃よりも高い負担率なのに何故暴動が起きないのか?みんな仕方が無いと思って諦めているんですね。そういう不安の中では、どうしたって株式市場は活況を取戻せないだろうと思います。だから、商品の時代だろうと思うわけです。
 非常に極端に言えば、あの株のバブルの時のように「今年は、商品で―財産出来る年ではないか」とそんなふ引こ思うんです。皆さんが基礎をバカにしないで、基礎をまず身につけてからやって行けば後々伸びる。
 私のところのグループで後藤という者が居りまして、その人が『絶対のパソコン投資術』という本を書いた。その中に「基礎が確りしていないと、いろいろな技法を取り入れても、または、どんなに作戦を立てたってダメだ」ということが書いてある。基礎というのが一番大事なんです。これは家を建てる時も同じで、基礎が駄目だとその上にいくら良い家を建てても駄目です。とにかく、この基礎固めが大事です。これは、いくら強調しようが強調し過ぎる事はない。
 ところが、一般の人は本を読むと「何だ!こんなに優しいの」とバカにして実行しない。皆さんが私の年くらいになるまでに、上手くいけば10億円、少なくとも5億円なりの財産を築いていたいならば、とにかく『資金に余裕を持つこと』『基礎固めをすること』『専門を持つこと』です。                             十
 それから『専門の持ち技』というのがあるんですが、それは基礎を繰返しているうちに自然に身についてきます。また、それが基礎固めにつながります。そして「ここぞ!」という時は無いんですから、淡々と相場の上げ下げを見ながら価格変動の波に乗る。つまり、相場には『秘訣』というか秘密はないことを皆さんに解かってもらいたい。私は、このことを強調します。
  とにかく、今年は天候不安で商品相場の年になると思います。成功をしたら、お祝いをしなさい。例えば、今持っている500万円が二倍の1000万円になったらお祝いをする。一番良いのは、奥さんを連れて高級フランス料理を食べに行くとか、私の所に菓子折りを一箱持って来るとか……(笑)。フランス料理を食べに行っても、変な女を連れて行っちやっ駄目ですよ! 必ず奥さんを連れて行く。ブスでも何でもいいから奥さん連れて行くのが良い……(笑)。それで、今度1000万円が2000万円になったら、やっぱり同じことをする。そして、それと同時に売買を最低で1ケ月休む。つまり、売買に区切りをつけるわけです。心理的にも区切りをつけることが大事です。これらのことを繰り返していって下さい。
  皆さんの成功を祈ります。
 以上で私の話を終わります。有り難うございました。

1998-01-08

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

8.確実な利益を積み重ねる

 去年の6月の講演会(先物情報クラブのセミナー)で、皆さんには「一般の人の間違った考え方」のお話をしました。一般の人の間違った考え方というのは、例えば『今、資金が500万円しかない。だから-一応の目標は5000万円とする。5000万円になるまでは「仕手株」とか「値勣きの激しい商品」とかを選んで取引をし、多少の危険はあるけれ何か早く目標を達成しよう。その目標を達成したら、『その内の1割くらいの1000万円は、危ないス リルのある株でもやってみよう』といったようなことです。まあ、これ はまだマシな方だが、もっと良いのは最初から確実な利益を積み重ねていくことです。だから、先程のような『とにかく目標の1億円を達成するまでは、多少危ない橋を渡っても早く達成しよう』ということでは間違いなんです。
  一番バカなのは「とにかく目標の1億円を達成するまでは、多少危ない橋を渡っても早く達成しよう」「そうじゃなきや、相場をやっている意味が無い」といろいろやる人です。その次に馬鹿なのは「目標の1億円を達成したら、1割位は危ない株でもやってみよう」と思っている人です。
  コツコツと1億円を達成した人の中で「そうか!相場というのはバクチではない」「経済行為であるから、そんなにポロ儲けができるわけがない。危ない相場をやろうと思ったのはやめた」「これからもコツコツとやっていこう」というような相場のコツを会得した人は、1000万円が年間3割増えていったとして、9年で1億円になる。ところが、1億円から10億円になるのには、不思議なことに9年かからない。もちろん、もったいない位お金を余らせての話ですよ。そして、利益率は資金全体に対して計算するんですよ。この世界はとても皮肉にできていて、お金のある人ほど儲かる。お金が無くてガツガツ儲けようという人ほど損してしまう。
  とにかく先程申し上げた三つの管理『資金管理、建玉管理、危機管理』これらが大切です。この中の危機管理というものについて少し詳しくお話します。危機管理には二種類あります。一つは『火の用心』の危機管理です。あらかじめ危機に陥らないように管理を万全にしておくものです。もう一つは『初期の消火』の危機管理です。ボヤのうちに消し止めるということです。玉を建てて失敗したかなと思った時点で仕切る。
 精神的には、もう普通の状態ではなくなるのだから、焦れば焦るほど結果は悪くなる。ところが失敗したかなという感覚が身につくまでには、ある程度の経験が必要なんです。先程申し上げた単純な売買を何度も何度も繰り返しているうちに、いわゆる変動感覚というのが身についてくるからです。
 お配りした資格の中に『一体、目場の上手・下手は何で決まるのか』ということが書かれています。売買技法と作戦と言う人がいます。これはさっきのゴルフと同じことです。私は相場技術論者ですから、売買技法と変動感覚が必要と言います。ピアノなども同じで、ピアノを弾く時には、指使いの技術とそれから音感が必要です。この場合の音感は絶対音感ではなくて、普通の音楽感覚という意味の音感です。これを相場にあてはめると、相場技法とヨミという人もいます。どちらにしても先程のゴルフの話のような技術と作戦のことです。
 我々の目的は、相場の評論家になる事ではない。価格変動の波に乗る事ですから、それ以外の事はやる必要はない。例えば、定年になったら第二の人生を相場で過ごそうと考えている人がいるとします。定年前から準備をしておいて、定年になったら相場一筋でやって行こうと考えている人のことです。相場が好きで、そういった人が結構いるんですよね。その場合、その人は商品会社の店頭には絶対行かない方が良い。店頭に行くと各商品銘柄の値段が示してある電光掲示板がありますが「その前にいる人は儲からない」とよく言われてるんです。電光掲示板が悪いんじやなくて、雰囲気に巻き込まれちやうんですよ。だから、朝起きたら新聞で場帖をつけて、グラフを描いてみて、それで今日は玉を動かすべきかどうかを5分考えれば良い。そうすると、後は1日中仕事が無い。売買伝票が来た場合はそれを玉帖につけますけれども、それ以外の時は仕事が無い。グラフ描いたり、資料を整理したり、それから趣味でいろいろな事をする人はいいですけれど、そうでない人は暇でしょうがない。
 こんな話がありました。暇でしょうがないから、朝から酒飲んじやって胃を悪くした人がいます。それで、その人が「どうしたらいいのか?」と相談に来たことがあります。「あんた、何か習いごとでもしたらどうか?」と聞いてみたら「尺ハが好きだ」と言うので、実際に尺八を習い初めた。そしてようやく胃が治ったそうです。
 何を申し上げたいかというと、意外に相場というのは時間が少なくて済むということです。相場なんて、考えたらキリがない。先程申し上げた『月曜日に新規売買をしない』というのもこの事を言っているのです。土曜日・日曜日に大きく引かされた玉を持って「ああでもない、こうでもない」と考える。或いは、その相場の動向が心配で「どうしよう。買うべきか、売るべきか」と考える。土曜日曜と考えに考え技いた挙げ句、月曜に最悪の手を打ってしまう。それを避けるために、「月曜日に新規の売買をするな」と言うんです。とにかく、考えたってどうにもなるもんじやないんだから、それなら考えない方が良い。

1998-01-07

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

7.期節と先見性

 それともう-一つは、相場というものは先見性がありますから、早目・早目に動きます。今、小豆の先物は8月限です。8月限と言えば、夏ですから暑い盛りです。それを今から先見して早目・早目に動いて行くんですから、豊作の時は早目に下がってしまう。これを青田ボメって言いますけど、まず間違いなく下がる。そうすると9月26目よりも3ケ月くらい早目に底を打つ。すると、6月26目。あるいは、何かの関係で1ケ月ズレると7月26目になる。
  それから、遅れた秋の底。つまり作柄が悪くて早目に相場が上がった時は、秋の安値が遅くズレ込んで12月になる。だから、ああいうグラフ(10年分描げる程の大きなもの)を描いてみるとよく分かる。12月26目に買っていれば、儲かったという罫線が頻繁に出てくる。
 全体として言えることは、1年とか半年、またはその半分の3ケ月といった波が見られる。これは、春夏秋冬、いわゆる四季によって描かれる波です。それから24節気というのがありますね。大寒とか、立春とか、そういうのを24節気と言いますね。
 それからもう一つは年度というのがある。日本は4月が年度変わりで、アメリカは10月です。金の相場などは、アメリカのFRBの金融政策で変わるから、グラフを描いてみるとよく分かる。4月か10月で底になったり、天井になったりしている。
 株の場合は、今、政府が株価維持政策PKOで無理してやっているけれども、12月と1月、または5月から月、それが天井になったり、底になったりしている。バブルの大天井は12月28目です。それから一昨年の年間高値は、5月の連休直後です。去年もそうでした。今年もそうなるでしょう。          
 ところが今年は、先程申し上げたデフレが非常に深刻化してきているため、政府は遮二無二公的資金で買い支えて3月決算を乗り切るうとしだけど、この相場の予想ってのはアテにならないから、あまり信用しないようにして下さい。
 ところが、商品相場というのは株とは違います。先程申し上げた農産物の一次製品の場合は、保存が効きません。例えば砂糖、ゴム、あるいえは綿糸といった二次製品の場合には、工場で生産調整ができますが、小豆だとか、大豆だとか、とうもろこしは、生産調整ができません。先程申し上げた大相場師の晴披の言った言葉で「お天道様には勝てない」という言葉かある。ある文庫本で人生訓集というのがありますが、その中にある言葉です。「豊作凶作は、人為的に左右できない」ということですね。
 ついでに申し上げますと、商品相場の銘柄には十数種類ありますが、やりにくいのは為替に左右されるもの。それから、流通段階で商社が強い支配力を持っている商品。これは本当にやりにくい。在庫だとか、生産だとか、そういう統計もあまり信用できない。その上、そういう統計は遅いから相場は先に行ってしまう。在庫・生産・輸入、そういうのは皆遅れて発表される。発表された時はもう織り込み済みで、あまり役には立たない。相場は先見性が命で、先へ先へと見て行くものです。私も小豆のいろいろな統計を沢山持っておりますが、それよりもやっぱり値動きそのものを重視したい。その値動きは、先程申し上げたように、成功者が口を揃えて言っている「春夏秋冬」「波」に気をつける。3ケ月ですね。だから、よく見ると3ケ月毎の上げ下げ、そういう波がある。あとは、先程申し上げたようにゴルフで言えば「確実に球を打つ」といったような、基本的で一番単純なやり方である価格変動の波に乗る”乗り方”を身に付けることだ。それはお配りした資料②にあるように、1枚買って、次にもう1枚買う。それで2枚ですね。それを2枚一括して手 仕舞いをする。あるいは、1枚売る、そしてもう1枚売る。その両方のやり方を辛抱強く続けなさいと書いてある。更に上手になろうとか思ってはいけない。上手になりっこないんだ。なりっこないと言うより、目に見えて上手にはなりっこない。ある目、「俺は上手になってた」と気づく。結果的にそうなる。
 上手になろう、上手になろうと思っているうちは、ちっとも上手にならない。辛抱強く同じことを続ける。先程申し上げたが、5番アイアン1本で1目300発打つ。それを3ケ月間続ける。続けているうちに芯に当たるようになるし、あるいは打ち分けられるようになる。打ち分けるというのは、例えば、右カーブを打とう、左カーブを打とう、または、グリーンに落ちてから右転がりの球、左転がりの球、そういう打ち分けが出来るようになるには、辛抱強く同じことを繰返した結果でなければ出来ないんだということです。
 相場でも全く同じです。「1枚買い、1枚買い、2枚売り」そういう基礎の基礎を馬鹿にしないでやってごらんなさい。そして、その時に1枚買いと1枚買いで合計2枚だから、資金は50万円で十分だろうというのではなく、最低でも300万円から500万円を預けなさい。つまり、資金を余らせる。そういう癖をつけなさい。それも馬鹿馬鹿しいくらい余らせる。
 私が、今、証券会社に預けてあるお金は全部で2億円程あります。それで、今、たくさんカラ売りしてますが、カラ売りしている銘柄を丸代金で計算しても6000万円くらいにしかなりません。つまり、預けてあるお金の2割くらいしか使っていないということです。余っている一部は中国ファンドなんかにしてありますけれども、8割は遊んでいるということです。中国ファンドなどは証券会社だから出来ますけど、商品会社だったら利息つかないお金ですが遊ばせておく。
 講演の前半に申し上げたように、私自身も以前は、1000万円近くまで儲かっては大きくヤラレていた。それから、また1000万円近くになって「今度こそは!」と思っても、同じようにヤラレていた。それを繰返していた時に「お前さん自分じゃ絶対だと言ってるけど、他人から見たら絶対じゃないんだから、そういう時には建玉を控え目にしなさい」と言われたことがあって、それからは建玉を控え目にするようになった。それも馬鹿馬鹿しい程お金を余らせた。
「そんな、商品会社に利息のつかないお金を預けマおくなんて勿体ないだろ」「定期預金にしておけ」と、よく言われたが、私はそのまま預けておいた。資金を余らせておいた。それで、ようやく預けていたお金が1000万円を超えた。まあ、それからは順調で来ました。

1998-01-06

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

6.心理的に負けない

 次に進みます。皆さんの中で、ゴルフの上手な方がいると思います。ゴルフの上手・下手は何で決まるのか?球の打ち方の正確さ、それと作戦ですね。例えば、池がある。他を越すのか、それとも他の手前で球を止めるのか。そういうが球の運びとか作戦ですね。ところが、前提条件として球を確実に打てなければ、そこへ飛ばないんだから作戦を立てても無駄でしょう。
 ゴルフは、まず確実に球を打つこと。芯に当てるって言いますが、このクラブの重心に球を当てることが大切です。例えば、皆さんがゴルフを正式に習いに行くと、プロに習うわけですが、そうすると単純なことから教えられますね。これは、ゴルフに限らず何でもそうです。単純なことを何度も何度も繰り返す。飽きるほど繰り返す。例えば、5番アイアンというのがありますが「5番アイアン一本で1目300発球を打ちなさい。そして、それを3ケ月間続けなさい」と言われる。そうすると嫌になってくる。 5番アイアン一本じゃつまらない。もっと長いドライバーで打ちたい。ところが、5番アイアンー本だけ打っているうちに、確実に球を打てるように-これを捕まえると言いますが一捕らえられるようになる。それで初めて『池の手前に止めようか』『池を越そうか』の作戦が立てられる。
 ところが不思議なことに、相場においては、まず作戦を立てる。玉を建てられないクセに作戦だけ立てる。これは、本末転倒だ。これは、皆さん良く解るでしょう。先程ゴルフの喩えで申し上げたように、作戦というものは基礎を身につけてから立てるものである。
 売買をするということやマネーゲームというのは、トランプゲームやジャンケンよりも遥かに単純だけれども簡単ではない。玉の建て始め、玉の増やし方・減らし方、限月毎の玉の配分、そして最終的に玉をゼロにするという過程が何段階もあるのですから、作戦を立てるのは簡単なことを繰り返し繰返しやって基礎を身につけてからすれば良い。これは当然のことなのに、皆さんそれをやらない。
 前に、会報(林投資研究所の会員向け)で、小豆の相場で生活し、そして5億円の資産をつくった人を紹介した。その人は、商品会社に3000万円預けてある。ところが、玉を建てても最高30枚までしか建てない。今、小豆の証拠金は1枚あたり6万円だが、約10万円と計算しても30枚分で300万円。つまり、預け金の9割が遊んでいる。余っている。そうなると「もったいない」「もっと玉を建てりゃいいのに」と思うかもしれないが、そうじゃない。それだけ余裕を持っているから、心理的に負けることなく儲けられるのだ。
 自分のことを言えば、私は小豆を散々やりましたが、一番最高に建て九時で320枚くらいでした。その時ちょうど相場が上がっていて、儲かっていた。道行く人が馬鹿に見えた。 ところが、東京駅から帰りの電車に乗った時、ふと表を見たら何か景色が違うんです。新しい建築工事が始まったんだろうと思ってましたが、実は反対方向の電車に乗っていたんです。それに気がついたのは10分後だった。私はその時儲かってたんですよ。儲かっている時でさえ、そんなもんだ。もし、逆に引かされていたら、精神的に正常な状態でいられない。だから、とにかくそういう悪い玉(引かされた玉)を持ってはいけない。
 お配りした資料にも3つの管理一資金管理、建玉管理、危機管理-について書いてある。資金管理は、今言った精神的に負担にならないように玉を建てること。建玉管理というのは、どういうふうに玉を動かしていったら良いかということ。例えば、朝、新聞が来たら、それで場帖をつけてグラフを描く。                         あんなグラフ(注:壇上のホワイトボードに貼り付けた、今日の参加者の方が手描きした折れ線グラフ)ですね。これは小豆のグラフで、10年ぐらい描いて巻いてあります。
 少し話が変わりますが、小豆に関する話で、大正12年、小樽に雑穀取引所というのが出来まして、当時は農産物の取引が盛んに行われたものです。その名残なのか、今でも小樽の町には、小豆御殿というのが幾つもある。一つは、現物の小豆で儲かった人、ポロ儲けした人の御殿です。
 第一次大戦の頃、ドイツ軍がロシアに攻め込んだ時、新鮮な野菜が無かったので兵隊達は脚気(かっけ)になって動けなくなってしまった。そこで、当時はまだビタミンが発見されていなかったので、世界中の文献を取り寄せてみたところ、その中に「江戸患い」という項目があった。江戸時代、地方の人は粟(あわ)とか稗(ひえ)とか玄米を食べていましたが、江戸の人は白米を食べていた。白米は胚芽(はいが)が落ちますから、ビタミンBが不足して脚気になってしまう。それが「江戸患い」と言われていた。江戸患いを治すには、小豆を水煮にして食べるとよく効く。砂糖を入れるとビタミンが破壊されるので、砂糖を入れない水煮を食べていた。すぐ治るものだから「これだ!」というわけで、ドイツ軍は日本に来て、値段に構わず小豆を買って行った。 ドンドン値を吊り上げたから、小豆で大儲けできた。それで、今でも小樽の町には小豆御殿というのが残っている。それからもう一つは、小豆の定期相場で儲けた人の御殿がある今の小豆相場と同じです。これも小豆御殿と言います。私が、赤いダイヤの買い占めをやった頃です。買い占めといっても、その頃の私は若造ですから使い走りだったんですが、その赤いダイヤの頃、私は小樽に何度も行づてたんですが、戦前に雑穀取引所に勤務していた人に、小豆の成功者、つまり小豆のプロ、あるいは小豆で財産を残した人達を何人か紹介されてお会いしたことがある。
 小樽で小豆で生活していた人、小豆で財産つくった人に何人もお会いしましたが、皆さん言うことは決まっています。季節的な変動に注意しなさい。1年に1回収穫されるものだから、収穫される時が安いに決まっている。しかし、相場は早目に動くもので、普通は次の年の収穫直前が一番在庫が少ないはずなのに、その時には春の高値から下がって秋の安値というのが出来る。秋の安値は、平年作の時で9月26目。これは毎年決まっている。だから、9月26日に買えば馬鹿でも儲かる。ところが新聞を読むと、今年はもっと安値があるとか書いてあるから買えない。

1998-01-05

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

5.個人プレーにおける注意

 マネーゲームというのは『不特定多数×不特定多数のゲーム』と言われます。ただ、このゲームに参加するとか、退場するとかいうのは個人の自由ですから個人プレーと言っても良い。それから『ゼロサムゲーム』とも言われます。例えば、一対一で勝負するボクシング、または将棋や碁、或いは、チーム対チームで勝負する野球などでもいいですが、これらは全て点数を勘定しますが結果は勝ち負けで決めます。5対1でも10対1でも勝ちは勝ち、負けは負けです。ところが『ゼロサムゲーム』と言われる相場の特徴は、勝った点数と負けた点数は必ず同じになります。つまり、売り方が100億円損したら、買い方は1 0 0億円儲かるわけです。但し、人数は違います。ところが、点数が違うと思っている人がほとんどです。個人プレーであるということは、ゲームに参加するか、退場するかの選択は自由ですから、どうしてもわがままになります。
 わがままにならないようにするという注意点がいくつかありますが、そのうちの―つが月曜日に新規の売買をしないということです。ホームトレードというものが在りますが、その時に注意することは月曜日に新規の売買をしないということです。何故かというと、土曜日・日曜日の間にとにかく考えて、考えて、考え抜いて最悪な手を打つ(売買をする)のが月曜日だからです。だから、月曜日には新規の売買をしない方が良いのです。ホームトレードで売買するときに注意する一つですね。それだけでも随分救われます。絶対ということは無いのだから、常に反対意見を考えていく。
 それから、何故こういう場帖をお配りしたかというとですが、場帖は相場をやっていく上で大変重要な道具だからです。場帖で値動きを辿るのはデジタル感覚で、アナログ感覚のものとしてはグラフがあります。今日、参加した方のグラフが在りますので、後でそれを広げますが、これらは売買をするための道具の一つですから、例えば大工の『ノコギリ』やお料理の『包丁』などと同じです。また、道具は『業務用の道具』と『趣味用の道具』の二つにハッキリ分かれています。 日本料理だったら板前、フランス料理だったらシェフと言いますが、コックになるには家庭用の包丁で死ぬ程努力しても駄目です。だから、相場をするにあたっても『趣味用の道具』『アマチュア用の道具』でいくら死ぬ程努力しても利益には絶対につながらない。
 この場帖は『業務用の道具』の見本としてお配りしたんです。ここでの注意点としては、目が疲れないように場帖の線は薄いもので、字は濃い目の黒で書き込むことが大事です。また、終わり三桁の比較し易いように書くことも大事です。
 こういった道具に間しての詳しい説明は、10分休憩してからお話します。質問のある方は、何か紙に書いて先物情報クラブのスタッフに出しておいて下さい。休憩の後でお答えしたいと思いますが、時間の関係上、この会場でお答えできない場合は、後で手紙なりで返事を差し上げます。 
 それでは10分間休みます。

1998-01-04

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

4.ホンネは嘘と思われる 

 とにかく、我々の周りには相場についていろいろな考え方を持ち、いろいろなやり方をやっている人が沢山いるけれども、先程申し上げた『絶対損する』という種類の人が圧倒的に多い。そのような人達は、自分を信じ込んでいるものだから、こちらがいくら本音を言っても「ウソだろう」と言って人の話を聞こうともしない。
 お配りした資料③の中に、林輝太郎投資研究所の会員の話が書かれています。その人はフランス料理のシェフなのですが、今から十数年前、テレビのお料理番組に出たことがあります。その人はテレビに慣れていなかったものですから、うっかりプロの本音を言ってしまったのです。そうしたら「あのインチキ先生を降ろせ」という投書がワンサカきたそうです。それで、その人は腐ってしまって、その後は段々慣れてくるにしたがって、そういう程度の低い人が理解できるような嘘をテレビで言うようになってしまった。そして、とうとうテレビを降りてしまった。嘘を言わないと理解されない。本音を言えば言うほど嘘と思われる。そんな世界で嘘を言っている白分か嫌で嫌でしょうがなくなったんですね。
 この壇上でも、私が皆さんに「なるほど」と納得するような嘘を喋れば、皆さん喜んで帰るでしょう。しかし、私は本音を言う。私の言う本音とは、一般投資家の欠点とか、そういう欠点を指摘するようなことですから、皆さんには聞き苦しいかもしれない。
 例えば、先程私は『ここは絶対だ!という時でも玉を多くしない』というお話をしました。「それはお前さんは絶対と言っているけれど、他人から冷たく見れば、確率二分の一だよ」「お前さんが絶対と言っているけれど、それは一人よがりなんだよ」と言われれば、「そんなことはない。需給はこうこう、相場はこうこう、ここは絶対に取れるんだ」と反論したくなる。ところが、現実には上手くいかない。やはり、1000万円近くまで儲けても、損して減らしてしまう。また、1000万円近くになっては、損する。このような事を繰り返していたわけです。当時私は、自分のどこが悪いんだと思っていた時だったから、そういう偉い相場師に言われて「なるほど!」と納得したから良いですけれど、その時「どうして1千万円を越えないんだろう」と思っていなかったら「何を言ってやがる!このじじぃ」と言っていたと思います。
『どうしても納得できない』という気持ちだけは仕方がないんですよね。テレビで、碁や将棋の解説をやっていますよね。私の碁の腕は9級で一番下ですから、9級なりの理解しか出来ない。ところが初段の人は初段なりの理解をするでしょう。私の研究所の会員で6段(碁)の人がいまして、日本アマチュア選手権でチヤンピオンになった程の人ですが、その人が「どうすればいいのか?」と間きに来たことがありまして、私は「あなたが初段になったころを考えなさい。同じことを何回も繰り返したでしょう。定石の本を100冊読んだって駄目だったでしょう。盤に並べてみなければ駄目だったでしょう。」と言いました。すると、その人は「わかった」と言って、それからその人は上手になりました。このように受入態勢があればいいのですが、大抵の人は受入態勢がない。私は建前論が嫌いですから、本音を言います。殊に私の本を読んでわざわざ会社や自宅に訪ねてきた人には、建前論を言いたくないから本音を言います。しかし、ほとんど理解してもらえません。理解してくれるのは大体2割位です。
 それから、私の周りにも相場で生活している人がいますが、もし、そういう人に教えを受けても最初のうちは理解できない。大抵の人は「ウソだろう」と思ってしまうからです。誰にも騙されていないのに、自分で勝手に騙されたと勘違いしているんですね。または、自分で失敗しているのに、誰かに騙されたから失敗したんだと思い込んでいる。そのように、今まで自分を偽ってきた。だから、人の話を信じようとせず「コイツもまた俺を駒すんだろう」と疑うようになっちやうんです。
 情報とか統計、または新聞とかいろいろな情報があって、普通、フアンダメンタルズやテクニカルズに分けますけれど、とにかくたくさん読んでみるのがよい。相場というのは、マネーゲームです。トランプゲームやじやんけんゲームとは違い、遥かに単純です。売りと買いしかないからです。ところが『資金との関係』とか『玉の限月毎の配分』とか、或いは『王を建て、維持し、玉を増減させ、そして、それを手仕舞ってゼロにする』それだけの過程を考えると、単純だが簡単ではない。それなのに一般の人は「当てりやいいだろう」と簡単なことのように言います。もちろん当てればいいですけれど「(なかなか)当たらない」と言っている。もう40年間やっているプロのベテランが予測しようが、今日始めたばかりのアマチュアが予測しようが、相場の予測の確率は全く同じで『二分の一』なのです。それを絶対に超すことはありません。
 例えば、計算はちょっと複雑だが、パソコンでやればすぐ出るRSI(相対力指数)やRCI(順位相関係数)等のいろいろな指標かおりますが、この指標に従って売買シミュレーションをしてみると、あまりにも当たるので驚きます。ところが、それで財産を残した人はいない。何故か?このような指標というのは、実際の値段ではないからです。まず、指数や実際の値段をアレンジした移動平切線のような別の値段を造る。そして、その指数や値段を見ながら売買をするわけですが、売買するのは実際の値段です。こういった売買の仕方を間接法と言います。つまり、先程『ギャンブラーの誤謬』の話でも触れましたが、確率が落ちるわけです。それも驚くほど落ちる。それで、儲かる人が少ないわけです。
 先程申し上げたように、こういうのを講演会でもらうことはほとんど無いと思います。もし、今後、皆さんがダイワフューチャーズの先物情報クラブで何か主題を決めて討論をする機会があれば、この中のどの項目でもいいですから、その主題を決める時に使って下さい。「果たして、林の言っていたことは本当なのか?」「俺はこの点が違うと思う」「俺は本当だと思うけど、この点に関してはちょっとあやふやじやないか」といったように議論をするためにこれを作りましたから、是非皆さん議論して下さい。

1998-01-03

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

3.確率と錯覚  

 次に、3番目の話です。この頃、転職することが普通になってきています。今、売れているいろいろな本の中に<なるにはブックス>というのが在りまして、『パイロットになるには』『スチュワーデスになるには』『○○になるには』という本がよく売れています。 しかし、その中に
『相場師になるには』という本が無いんです。それから、カルチヤーセンターというものがあちこちに在ります。『源氏物語のお話』とか『外国語教室』或いは『ピアノ教室』とかいろいろ在りますが『相場教室』というのは在りませんね。どうしてでしょうか?あまりにも本音と建前が違うからですね。
 先程申し上げた通り、私は72歳です。もともと建前論というのが嫌いですので、これからのお話も全て本音の話をしようと思います。本音の話というのは非常に抵抗を受ける。それでも、やはり本音の話をしたい。建前論なんかしたくない。これが3番目の話です。
 今日の講演は4時までですが、途中で10分ぐらい休憩します。それまでは相場に対する考え方とか、或いは、先程申し上げたギャンブラーの錯覚とか誤謬という話をします。これは数学でちゃんとある言葉で、この考え方の違いや間違いの具体的な話は、休憩後にしようと思います。
 先程申し上げましたが「私が相場で1000万円近くまで儲けても、また損してしまう」ということを繰返していた時、建玉を控えめに抑えるというのは、「あまりにも消極的ではないか」と、皆さんに言われるかもしれませんが、これは違うんですよね。それについての話しをこれから展開していきます。
 先日、私の自宅の資料室に訪ねてきた方がいます。自宅の資料室のほうが会社よりも大きいのですが、明るくて、広いので集会には都合が良くて、時々そこで討論会などもします。その方は「パソコンが大好きで、3年間、寝る間も借しんで70%当たる確率の指標を発見した」と言うの です。それから「しかし、これでは物足りないから、あと10%確率を上げたい。そうすると、利益金が50%増えるので、その為に林先生のアドバイスをいただきたい」と言ってました。70%の確率を80%に上げると利益金が50%増えるー。皆さん、計算できますか?簡単な計算なんです。皆さんにお配りした資料の中に『確率と損益金は比例しない』
 としていますが、その人は比例すると考えている。本当は比例しないんだけれども、仮に『確率と損益金が比例する』という前提でお話します。
 元金1000万円で取引する。 70%当たる、つまり30%は外れるわけです。そうすると、1000万円で700万円儲かるが、300万円は損しますから、差し引きの純利益金は400万円です。80%当たると利益金が800万円で、損金が200万となり、差し引き600万円の純利益金になります。先程の400万円の純利益金が600万円になりますから、50%利益金が増えますね。本当に70%当たって損益金がそれに比例するならば、その人はたちまち世界一の大金持ちになれる.私のところになど来る必要はない。
 パソコンの好きな方がやっていることは『確率の高い指標を発明しよう』とか『組み合わせて儲かる指標を作ろう』とか涙ぐましい努力をしていますが、これは数学的に見ても絶対に不可能です。
 トランプのブラックジャックという賭けの確率の計算を『カードカウンティング』と言いますが、これをしたアメリカの大学の数学者がいます。
 その計算によると当たる確率が5 0.3%、外れる確率が4 9.7%で、その差はたった0.6%です。それでも何故これが有名なのかと申しますと、世界一の確率だからです。これ以上の確率のものは世の中に在りません。
 70%当たる!-それならば、私のところに来る必要はないのです。
 儲けてキャデラックに乗って、美人秘書を連れて、美味いものを食ってヤいられる。そんな確率(70%とか80%のような確率)は世の中に存在いたしません。そのような確率が存在するといったような錯覚のことを『ギャンブラーの誤謬』と言います。
 サイコロジカルラインという指標が在りますよね。これは、上がった時は白丸、下がった時は黒丸といった具合に星取表で表示するものですが、これについても同じことが言えます。例えばサイコロを振って、丁が10回読いて出た。次の11回目は「半の可能性が高い」と思うのは錯覚ですね。確率は二分の一に決まっている。
 この『ギャンブラーの誤謬』というのは数学の世界では有名です。一週間に5営業目ありますが、もし価格の予測が『高い、高い、高い、高い、高い』もしくは『高い、高い、安い、高い、安い』となった場合、どちらの方が可能性が高いのか?数学の用語で生起確率と言いますが、この確率からすると両方とも可能性は0.031で同じです。こういう錯覚のことを『ギャンブラーの誤謬』と言います。
 例えばトレンド、或いはRSI(相対力指数)・RCI(順位相関係数)といったようなオジレーターなどいろいろな指標が在ります。仮に60%当たる指標が存在するとします。そして、もう一つ60%当たる指標が在る。それらを上手く組み合わせて確率を高めようとするのは、数学的にも理論的にも絶対不可能です。0.6十〇.6=1.2にならないのです。0.6×0.6=0.36になるので、確率はぐんと下がる。だから、お渡しした資料のパソコン利川のところにも併用不可と書いてあります。
 パソコンが世に出てから十数年経ちますが、パソコンを使って財産を築いた人が果たしているのか?私もいろいろなツテを求めて調査し、そのような人に直接会いましたしかし、十数年でたったの2人です。パソコンはすごく便利な道具です。パソコンを使えば必ず儲かるというのなら、誰だってパソコンを使いますが、実際はそんなに儲からない。絶対に儲からないと言っているのではなくて、パソコンを使う人間の能力が高くないと、パソコンを使いこなせないということですね。これは、パソコンに限らず相場をする上で必要となる能力全てに言えることです。
 お配りしてある資料の中にも『無知無能な肴は敗残肴となる』と書いてあります。無知というのは知識が無いことであり、この知識というのは本を読めばわかります。例えば、今申し上げた-システムの併用は確率を低下させる-といった『ギャンブラーの誤謬』に関しての知識は、もうわかったと思います。しかし、実際にはこの『ギャンブラーの誤謬』自体を知らない人が多い。
 今、あちこちでいろいろな相場分析や予測のソフトを売っています。その中には、四十何種類ものいろいろな指標が入っているソフトがありますが、それではかえって迷うばかりで駄目だろうと思います。その上 「この指標とこの指標とを併用して‥.」なんていうと、先程申し上げたように掛け算になりますから、どんどん確率が低下していきます。
 皆さんがゴルフを教わる場合、下手な人に教わらないですよね。上手な人に教わるものです。また、教え上手、習い上手、習い下手といろいろな言い方は有りますが、やっぱり下手な人に習うのはイヤだと思います。私は「自分は随分努力した」と先程申し上げましたが、本当によく本を読みました。解らないことは、いろいろな人に教えてもらいました。それでも、損した人に教わるのはやっぱりイヤでした。イヤっていうより、そんな人はすぐに底が見えてしまうから「何だ!この人損しているくせに、口だけ上手いじやないか」と、言いたくなってしまう。
 ゴルフの場合はやっている姿が見えますから、
 「あの人の球はビューと飛ぶから、あんなふうにやればいいんだ」とわかります。
 ところが相場の場合は、人がどのように売買しているのか見えませんから、我々はツテを求めていきます。ツテというのは、例えば、先程申し上げた山種さんとか、鈴木隆さんとか、或いは、晴披さんとかのことですが、そういった人達がどのような売買をしたのかを調べてみるわけです。そして、その記録を実際にに見てみて「なるほど!」「すごい!」「こうやっているのか!」と参考にして自分もやってみるわけです。これがなかなか出来ないんですけれども、とにかく真似しようとします。ところが、基礎が出来ていないと、真似だけやってもダメなんです。その基礎をどうするか?それは休憩時間の後で具体的なことをいろいろとお話します。

1998-01-02

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

2.商品よこんにちは    

 今、デフレの不況ですね。インフレではありません。デフレです。戦後、日木ではインフレの不況は何度もありました。敗戦直後もそうです。一斤5銭の砂糖が3円50銭まで上昇して、70倍になった。あるいは石油ショックの時、あの時は一見デフレみたいでしたけど、石油価格が上がってましたからインフレです。                おそらくデフレの不況を記憶している人は、今90歳以上の人でしょう。私もデフレの本を色々読んでおりますけれども、全然ピンときません。
 これからデフレの不況が、ますます強くなっていくと思います。非常に極端な話に思われるかもしれませんが、これからの株の業界はダメです。大昔に、大昔と言っても20年くらい前のことですが、証券業界が
 『銀行よさようなら、証券よこんにちは』    
というキヤッチフレーズを出して世間の非難を浴びた。それを捩(もじ)って言えば、
 『証券よさようなら、商品よこんにちは』と言いたい。
 もちろん、デフレで株は低迷が続くでしょう。逆に、低位株で出世するものが増えるかもしれない。だから、銘柄選別が大切になる。
 インフレの不況というのは期間が短い。しかし、デフレは長い。本当に長い。「これでもか、これでもか」といった具合に長い。山一証券が潰れた。北海道拓殖銀行が潰れた。もう、これで最悪の事態は脱したと思っている。 しかし、これからゼネコンが何社も潰れるかもしれない。流通業で言えば、ダイエーが潰れるかもしれない。または、セゾンが潰れるかもしれない。ダイエーとセブンを比べると、ダイエーの方が潰れそうですが、もしダイエーが潰れたら心理的に大変なことになる。山一の名前を知らない人でも、ダイエーの名前は知っているでしょう。
 また、現在の国民負担率、給与の中に占める税金など(税金・固定資産税・年金・健康保険などの公的支出)の割合が史上初めて50%を超えました。江戸時代、いくら酷い殿様でも百姓から年貢(税金)を取るのに「米の獲れ高の半分をよこせ」というのは無かった。現在50%超えています。(ダイワフューチャーズ発行の月刊誌FORE98年3月号には「搾取は35%」と出ている)
 可処分所得が50%以下だから、消費はますます落ちていく。落ちていくことは仕方がないことです。だから、デフレの不況は長引く。どれぐらい長引くかそれは分からない。
 今、政府のとっている経済政策のほとんどは間違っている。一つ一つを見ると良さそうなんですが、全体を合わすと逆効果になっている。これを経済学では『合成の誤謬』と言いますが、それがますます深まっていく。だからこれから景気はますます悪くなるだろう。
 そして、今、世界的に問題になっているのは大気汚染と異常気象です。先日、アメリカの東部で50年ぶりに風速120メートルという竜巻がおきて、何百人か亡くなりました。西部のカリフォルニアでは、長雨による大洪水がありました。日本でもこれから異常気象による天災が、続発するのではないかと思われます。
 それから、ダイオキシンによる大気汚染が進んでいることを皆さんご存知だと思いますが、日本が世界一なんです。奇形児が生まれるとか、あるいは、その他の色々な動植物に悪い作用が起きる。
 日本の商品相場には19銘柄位ありますが、金属を除いて農産物です。農産物にも一次製品と二次製品とかありまして、一次製品とは畑で揺れた形がそのまま在るもので、小豆・大豆・トウモロコシといったものですね。二次製品というのは畑で揺れた形とは違う形で流通しているもので、例えば砂糖とか、ゴムとかですね。しかし、農産物であることに変わりありません。
 異常気象は農産物に影響します。だから、今年は商品相場に何年ぶりかの、株で言えばバブルようなチャンスが訪れるだろうと思われます。これが2番目の話です。

1998-01-01

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

1.最初のステップは1億円

 私が林でございます。 
 相場の世界では「場帖が無ければ全ては始まらない」とよく言います。普通、株の場合は<3ヵ月場帖>を使いますが、商品の場合は<1カ月場帖>を使います。お配りしてある資料の中に、場帖のコピーがあると思います。これは東京小豆の平成9年12月22目から平成10年1月27日までの期間のものです。この間に急落して底をつけていますが、そのときの場帖です。
 資料②として『売買練習の基本形』について書かれてあるもの、資料③で『実際の売買における注意点』の大事なところが書かれています。そして資料④に『林輝太郎の主張要旨の基礎』と書かれたものが1枚入っています。
 皆さんは、こういうものを他の講演会では貰ったことが無いと思います。何故これを配ったかと言いますと、普段皆さんには討論する機会がほとんど無いからです。例えば、今後「先物情報クラブ」で、定期的に集会とか討論会を開く機会かおるでしょうが、そういう一見ケンカをしているように見えるほどの白熱した討論をしたりするチャンスは、ほとんど無いと思います。
 我々プロ同士の間では、討論を年中やります。そして、本音の話をします。ところが、その中に一人でもアマチュアの方がいると、その討論会はブチ壊しになってしまう。程度が違うというか、次元が違うというか、全く話が通じない。
 それはこの資料③に、お料理のことを例にとって書いてありますので、また後でお話したいと思いますが、もし投資家同士で話をする時に、例えば『場帖について』とか『資金管理について』とか、そういう主題を決めて討論なり議論をなさるために、これは重要なヒントになると思います。
 資料についてはこれくらいにしておいて、今日の演題は『売買技法の基礎固めと資産折損途上の注意点』ですので、この二つを中心に話をしていきます。
 まず初めに、4つのお話をしたいと思います。
 その一番目。私は、今72歳です。皆さんが私の年になる頃には、できれば10億円、少なくとも5億円の資産を築いていなければ相場をやった意味が無いのではないかと思うのです。5億円とか、10億円とか言うと驚くかもしれませんが、初めのステップは1億円で良い。
 私は昭和23年からずっと相場をやり続けております。今から30年以上前の1000万円、今だったら大体1億円くらいに相当すると思います。その近くまでは儲かるのですが、その後損してしまう。また、近くまで儲かるのですが、また損してしまう。「どこが悪いんだ?」と思ったものです。
 元々、私は生まれて初めて株をやった直後からプロの人から色々教わって、お金に代えられない貴重なことをたくさん教わったのですが、それが身に付いたのは20年後です。 しかし、とにかく1000万円近くまで儲かると、また損する。
「どこが悪いんだろう」もちろん人一倍勉強しました。本も読みました。努力もしました。商品会社の社長も十数年やりました。
 私は統計なんかが好きですから、絶対損するお客というのはどういう種類なのか分析したことがあって、本にそのことを書いたことがあります。私たちは「おままごと」と言っていますが、資金も小さく、売買も小さく、人間までも小さくなってしまっている一般の投資家がいます。そんな人は、死ぬまで儲からない。
 しかし実際には、そういう風に小さく固まってしまう人が大部分なんです。それを乗り越えるのにはどうすればいいか。
 あとでまた詳しくお話しますが、例えば、相場をやっていますと、二年に1度や2度は「ここは絶対だ」と思う時があります。「ここは絶対だから、資金を有効に活用しよう」と思うわけです。つまり、沢山の枚数をやりたいわけですが、その気持ちを押さえなきやならない。その苦しさを乗り越えなきやならない。そうすればお金は残る。
 この商品業界で大相場師と言われた人で山崎種二という人がいました。山種ですね。それから個人であまり有名ではありませんが、鈴木隆という人がいます。戦前、今の参議院が貴族院と言われていた時代、全ての議員は天皇陛下に指名された勅選議員でした。当時、高額納税者であった鈴木隆という人は貴族院議員でした。その人にも直接色々と教わりました。それから、戦後のこの商品業界で、個人で一番儲けた晴披留作という方がいましたが、この方からも直接教わりました。
 私が「ここは絶対だ!」と思った時に、沢山の枚数をやるわけですが、そうしたら、晴披さんに「お前さんは自分じゃ絶対だと思っているけれども、第三者から冷たく見たら絶対じゃないんだよ」「自分一人で絶対だって張り切っているだけで、第三者から見たら確率は二分の一なんだよ」
 と言われたことかあります。後で『ギャンブラーの誤謬』という数学的な錯覚についても触れますれど、今の「ここは絶対!」というのは錯覚ではないんですよね。完全なな思い違い。
とにかく最初のステップとして1億円達成しなきやいかん。
「どうしたらいいか?」この話がまず一番目です。