2009-01-24

アメリカよ・新ニッポン論:第1部・同盟と自立

アメリカよ・新ニッポン論:第1部・同盟と自立/1(その1) - 毎日jp(毎日新聞)

 ◆三菱UFJのモルガン出資決断

 ◇米政府、異例の謝意 経済安保で連携

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(三菱UFJ)から米金融大手モルガン・スタンレーへの約90億ドル(当時約9000億円)出資。「100年に1度」の金融危機で崩壊寸前の市場を支えた昨年10月13日の巨額資本提携の陰には、日米両政府の緊密な関与があった。ビジネスの論理を超えて同盟の経済安全保障が発動された緊迫の舞台裏を明かす。【後藤逸郎、井出晋平】

 「こちらとしても大変喜んでいる。ぜひ成功させてほしい」

 モルガンとの交渉が大詰めを迎えていた時、米国にいた永易(ながやす)克典・三菱東京UFJ銀行頭取の元に、ヘンリー・ポールソン米財務長官から電話が入った。交渉中の日本の民間企業に、米財政当局トップが「祝意」を伝えるのは極めて異例だ。

 合意を目前に控え、あえて「激励」とも「謝意」とも受け取れる言葉を伝えた裏に、米政府の並々ならぬ「決意」がうかがえた。

 「市場」対「国家」の戦いで米政府は劣勢に立っていた。10月10日、ワシントンで開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)。米政府が公的資金投入をためらい、モルガン株は急落。9月に破綻(はたん)した米証券大手リーマン・ブラザーズの二の舞いとなる恐れが高まっていた。

 永易頭取と共にワシントンにいた三菱UFJの畔柳(くろやなぎ)信雄社長、国際担当の副頭取や執行役員らも、苦しい選択を迫られていた。

 提携は9月に基本合意していたが、出資額は当時の株価が基準。株価が下がったため損失は免れない。米政府が公的資金を投入すれば出資価値はさらに下がり、株主代表訴訟の恐れがある。とはいえ、ここで出資をやめればモルガン破綻の引き金となりかねない。

 G7に臨んだ日本政府高官は、中川昭一財務・金融担当相、篠原尚之財務官、玉木林太郎国際局長、山崎達雄金融庁参事官ら。

 進退窮まった三菱側は政府側に極秘に接触。政府側は、米側の意向を探った。

 「米の政・官・民は、三菱UFJからの出資を、ダン(完了)させることで一致していた」(日本政府高官)

 日米当局間の折衝は10日夜から断続的に続いた。焦点は、米政府の公的資金投入の方法。11日未明、三菱UFJを含む外資が後で損を出さない方法であるとの情報が日本側にもたらされた。

 「結局はG対Gですよ」(三菱UFJ幹部)。Gは英語のガバメント、政府を指す。

 永易頭取はモルガンのジョン・マック最高経営責任者と最後の交渉に臨み、株の種類を変えて損失発生を抑える出資条件の変更で合意。ニューヨークのモルガンに額面90億ドルの小切手が持ち込まれた。13日のニューヨーク株式市場でモルガン株は急騰。危機はひとまず去った。

 「三菱のためじゃない。日米のためにやった。日米だからできた」(日本政府高官)

 1960年の日米安保改定から間もなく半世紀。軍事・経済・社会・文化まで、同盟は広範に深化してきた。次の半世紀の成熟した関係はどうあるべきかを探っていく。

アメリカよ・新ニッポン論:第1部・同盟と自立/1(その2止) - 毎日jp(毎日新聞)

 ◇モルガン出資なら処分解除--FRBしたたかに誘導

 先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が終わった昨年10月10日夜から13日朝にかけての実質3日間、世界金融システムを支えるため、米政府は日本政府とも連携し、邦銀からの巨額出資取り付けへ遮二無二動いた。だが、その前から米政府や米連邦準備制度理事会(FRB)は、外国資本から米系金融機関への出資を促すため、したたかに動いている。

 「モルガン・スタンレーへの出資があるので、米当局が当行への処分を解除する」

 東京の三菱UFJフィナンシャル・グループ本店に、米国から極秘情報がもたらされたのは、9月23日だった。

 同月、三菱UFJ米州本部の検査に入っていたFRBが、翌週中に現地法人の処分を解除する準備をしていると伝えてきたのが根拠だったという。検査は2週間で終わった。

 01年の米同時多発テロの後、米国はマネーロンダリング(資金洗浄)の監視を強化。防止体制が不十分だった内外の金融機関に「リットン・アグリーメント」(業務改善命令の一種)を出した。処分中は金融持ち株会社の認可が得られない。

 三菱UFJ現地法人は06年に処分を受け、翌春を目指していた米金融持ち株会社設立計画が崩れた。この資格がなければ投資業務などが自由にできず、事業が展開しにくい。傘下の現地銀行も04、07年の2度処分されていた。

 「米系金融機関に投資すれば、業務改善命令を解除する」

 ウォール街で07年から、うわさが流れた。米政府に強いパイプを持つ米系法律事務所が、海外の金融機関に話を持ち込んだからだ。

 日本の大手金融機関幹部は、同年来日した米財務省幹部から「米系金融機関への出資と処分解除はセットだ」と示唆されたと証言する。

 米系金融機関への投資の動きが広まった。08年9月に破綻(はたん)した貯蓄貸付組合最大手ワシントン・ミューチュアルとの提携話も当時、邦銀に持ち込まれていた。だが、処分解除の見通しが立たない三菱UFJは出遅れた。

 「モルガン出資=処分解除」の情報に先立ち、モルガンは株価急落で経営危機に陥っていた。9月19日、三菱UFJ、邦銀大手みずほフィナンシャルグループ、中国政府系ファンド中国投資有限責任公司に、一斉に提携の話が持ち込まれた。

 いずれも不調に終わったが、モルガンは三菱UFJに的を絞って21日、再度出資を要請。投資銀行業務を強化するため「モルガンには長年あこがれを抱いていた」(同行幹部)三菱UFJは翌日、最大90億ドルの出資方針を決める。米投資銀ナンバー2の巨大金融機関の資産査定を、わずか2日で済ませた。

 FRBの処分が解けない限りは出資できないが、処分は30日、解除された。三菱UFJは直ちに宿願の米金融持ち株会社設立を申請。認可は10月6日、史上最短で下りた。

 ◇「オバマ氏側近も喜んだ」

 しかし、モルガンの株価は下がり続け、10日には米政府が公的資金投入の方針を発表した。米政府の投入方法次第で、民間からの出資は価値が下がる恐れがあった。FRBとの呼吸合わせは、証拠のない「裏の事情」。三菱UFJは「降りるに降りられない」境遇に置かれた。

 10日夜から11日未明、三菱側はワシントンで日本政府高官と接触。日本側が米側と情報交換を重ねた。交渉の大詰めで、ポールソン米財務長官が永易克典・三菱東京UFJ銀行頭取に掛けた異例の電話が、「謝意」や「激励」に形を借りた「催促」とも受け取れたのは、こうした経緯があったからだ。

 日米両政府が裏で最後の環境を整え、米当局トップが決断を促す息詰まる交渉のさなか、畔柳信雄・三菱UFJ社長は米国時間11日正午過ぎ、慌ただしく帰国の途についた。

 日本時間10月13日夕(米国時間同日早朝)、米系法律事務所サリバン・アンド・クロムウェル日米事務所を結んだテレビ会議で臨時取締役会が開かれ、畔柳氏は日本、永易氏は米国で臨み、出資は決定された。

 「モルガンがつぶれていたら今の世界はない。米金融当局やオバマ次期大統領に近い人からも非常に喜ばれたと聞いている」(三菱グループ幹部)

 モルガンのジョン・マック最高経営責任者は12月17日の決算発表で、事業展開の柱に「三菱UFJとの戦略的提携」を挙げた。=つづく

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