2006-02-27

My Trading Life (30)

『売り専』は、清春氏が姿を消すと、今度は、書き手が誰もいなくなった焼け跡の瓦礫のような掲示板になってしまった。時々、清春氏の信奉者たちによる嫌がらせの書き込みがある他は、ほとんど書き込みがなくなった。

奇術師さんは、荒廃した『売り専』でしばらくは書き込みを続けていた。しかし、奇術師さんもやがては姿を消すのだろうなという予感はあった。奇術師さんはトレンドフォローの投資家である。大きな仕手相場が終わった後のダラダラとした下げトレンドにも似た『売り専』の掲示板で、奇術師さんがいつまでも書き込みを続けるとは思えなかった。彼はトレンドに逆らって頑張る人ではない。



奇術師さんの掲示板での最後の書き込みを再録しよう。

華麗な流れるような文体、初心者の人への心遣い、さらりと書きながら、読むたびに新しい発見のある深い内容。奇術師さんは最後の時まで、彼らしさを失わなかった。

決して長い発言ではないし、「黒魔術?」や「株価神聖論」や「Gold」のようにその後何度もネットで語られてきた書き込みでもない。完全に忘れられてしまった発言であり、奇術師さんが掲示板でこの発言を書き込んでから5年近くの間、ネットで再掲されたり、話題になったことは一度もないと思う。

しかし、僕はこの書き込みから多くのヒントを得た。奇術師さんの最後のメッセージとして、言葉は適切ではないがいわば遺言として受けとめた。

下降トレンドにおける空売りでの利益は、上昇トレンドで買いでの利益よりもはるかに価値がある。このことは、その後2年間続く下降トレンドの中で、骨身に沁みるほど知らされることになる。

株式ビギナーが、100万円という資金を持っているとしよう。例えば株価1,000円のAという銘柄と、株価1,500円のBという銘柄があるとする。どちらも1単位1,000株とすると、100万円の資金しかなければ、A銘柄しか購入できない。A銘柄を購入したところ、運良く1ヶ月後には1,500円まで株価が上昇したとしよう。ほくほく顔で利益を確定し、今度はB銘柄を買おうとする。しかし、B銘柄はおそらくすでに2,500円、3,000円と上昇しているはずで買うことは出来ない。

A銘柄で500円幅を儲けたこの株式ビギナーが、買うことの出来る銘柄は、1ヶ月前とほとんど変わることはない。

ただ、当人のうぬぼれだけは間違いなく大きくなっているはずである。おそらくいっぱしの投資家気分で、自分の銘柄選定の技術や売買タイミングの判断に対して、根拠のない自信を持っているはずだ。

おそらく彼は、さらに大きなリスクを取ろうとするだろう。信用取引に手を出すのか、あるいはサラ金で借金をして資金を作るのかは分からないが、よりリスクの高い資金運用を躊躇わないだろう。そして、資金を目一杯張ったところで、大きな下落に見舞われる可能性が大である。

マーケット全体の大波のような動きに、個別銘柄はほぼ従って動くので、実は銘柄の選定は、それほど決定的に重要なことではない。相場全体の大きな上昇であっても、心理的にクールな状態を保ち続けることの方がはるかに大切である。

それでは逆に、一時的な下落の場面で、Aという銘柄を1,000円で空売りしたとしよう。予想通り、相場は下がり続け、そろそろ反転するのかというタイミングで850円で利食ったとしよう。利益はわずか150円幅。しかし、そのときには、B銘柄も大きく下がっているはずで、空売りの利益でB銘柄を安い買値で買うことが出来るはずだ。

株式を資産として考えるならば、上昇トレンドで、50%、100%の利益を上げるよりも、下落の局面で10%、20%の利益を上げることの方がはるかに価値がある。最終的により多くの株式資産を持つことが出来るからだ。



奇術師さんが『売り専』で最後の書き込みをした01年07月05日。そのときの日経平均は12,607.3円。日経平均は2年後の03年04月には、7603円までたたき落とされる。

明らかに風向きは変わり始めていた。嵐はすぐそこまで来ていた。どれほど大きな嵐になるのかは誰にも予想できていなかった。

そして、株価が地を這い続ける地獄のような数年間を、ネットの掲示板に集っていた個人投資家たちは、マーケットの奇術師さんのガイダンスなしで、戦い続けることになった。


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【 タイトル 】こんばんは
【 発言者 】マーケットの奇術師
【 日付 】01/07/05 23:31

日経平均 12607.3 (-21.72、-0.17%、現物)

一時プラスサイドに浮上したのですが、続きませんでした。なかなか上へ行かせて
もらえませんね・・・ただ、昨日地合に引きずられて下げた銘柄は、今日は反発
しているものも多かったです。
12500の攻防という感じですが、このあたりでショートが溜まると、今度はSQに
向けて、上を試しに行く可能性もあるかもしれません。

ボストンさま:
おひさしぶりでございます (^^)
あいかわらずボストンさまらしい、飄々としたご投稿、懐かしく拝見しました。
またよろしくお願いします。

ROM屋さん:
いや〜、ほんとに暑いです。まだ身体のほうが順応していないせいか、こたえます。
今年も早めに夏休みにするかな・・・
相場の方は、おっしゃるように何かいいキッカケが欲しいですね。日銀は短観出して
あとはしらんぷりで、頼りにならないし、困ったものです (^^;
ところで、ROM屋さん、もうすっかりROM卒業ですね。

補足:
> 個人的には、TDKが4000円を割れたら、久しぶりに現物を買い増し
> してもいいかな、と思っています。さすがに無理かな・・・

うーん、ちょっと誤解を招く書き方でしたね。
まあ、山高ければ谷深しで、無いとは言えませんが (^^;
これは単に、私が昔から持っているTDKの平均購入単価が3000円台後半なので、
万一そのあたりまでくれば、絶好の買い増しのチャンスかな、と思っただけでした。
そこまで下がるだろうとか、そういう意味ではありませんです。失礼しました。

以下は余談ですけれども・・・
以前、かの山崎種ニ氏が、どこかで
『買いで儲けた金は使いでがない。本当に値打ちがあるのは売りで儲けた金である』
という意味のことをおっしゃったそうです。売りで有名な相場師らしい言葉です。

たとえば100円の株を1万株買い、200円に上がったらどうするか?
利食ったら100万円の儲けですが、同じ株を株数増やして買い増すことは
できません。また、そういう時はたいてい他の株も上がっているので、利食って
他の株に乗り換えても失敗する可能性が高いです。

200円で売り繋いでおき、100円に下がったところで売り玉を買い戻せば、
同じ100万円の儲けでも、そのお金でさらに買い増し、合計2万株の株主になれます。
あるいは別の株を買うにしても、相場が下がっているところで買うわけですから、
非常に有利だと言えます。

私はこれを聞いたとき、なるほどこういう考え方をするんだなあ、と感心したのを
覚えています。
売買差益を抜くための中間物としてだけではなく、資産としての株式を考えたとき、
上がったり下がったりするからこそ株が資産になる、という面もあるのだということ。
右肩上がりの一本調子の相場の時代とはまた別の、取り組み方や哲学がある、ということ。
いろいろと、考えさせられるお言葉でした。

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