2008-02-25

邱永漢氏

特別対談 - マネーや投資にまつわるお話を文化芸能・投資関連著名人等にうかがいます。

特別対談:邱永漢氏 - “お金の神様”が占う日本の未来予想図

プロフィール

事業を起こせば大成功、文章を書けば大反響、投資をすれば大儲け――そんな華々しい経歴から、“お金の神様”と呼ばれる邱永漢さん。今年84歳とのことですが、今なお多くの事業に携わり、東京や中国、台湾、香港などを東奔西走する日々を送っていらっしゃいます。アジア各国に精通する邱さんが実感するのは、“アジアの時代”が確実に近づいているということ。その一方で、日本はアジアのトップの座から後退しつつあります。半世紀も前から、日本の輝かしい未来をその都度正確に予言してきた“お金の神様”は、今の日本の先行きをどのように占うのでしょうか?

過去にとらわれる日本をおいてけぼりにしてアジアの時代がやって来る!

――邱さんはもっぱら世界中を飛び回っていると伺っておりますが、最近はどちらに行かれていたんですか?
ついこの間、ベトナムに行って香港に行って、中国の昆明、成都、北京に顔を出し、それからドバイへ飛んで、最後はトルコにも足を伸ばしてきました。また数日後には、上海に行く予定です。今年は上海を足がかりとした仕事がますます増えそうなんです。
私は1年に120回くらい飛行機に乗っています。ほぼ3日に1回というペースです。中国の各地や台湾などに仕事を持っているので、中国中をしょっちゅう飛び回っています。ほかにもミャンマーやインド、ロシアなど、目ぼしいところには視察に行きますから、必然的に飛行機に乗る回数は増えます。最近足を運んでいる国の中でも、特にベトナムは猛スピードで工業化が進んでいて、かつての中国のように次々と上場企業が増えていますから、これからが楽しみです。
「そんなにあちこち飛び回って疲れませんか」とよく聞かれますが、どんなことでも自分の目で見て確かめないと気がすまない質なんです。日本には植物みたいに根を下ろしたまま動かない人が多いけれど、もっと自分の目で見、自分の耳で聞くことを大切にしたほうがいいですね。少しでも休暇ができたなら、海外へ行って見聞を広めることをおすすめします。日本に閉じこもってばかりいると、どんどん感性が鈍って、世界の動きについていけなくなります。この10年ほどで世界は大きく様変わりしましたが、日本はそうした変化から取り残されてしまった感じです。
――日本人としては、その敗因が気にかかるところですが……。
インタビュー
日本人は過去にとらわれ過ぎています。確かにこれまではアジアの中で突出した動きをしてきましたが、今は中国をはじめとする“アジアの時代”に移り変わりつつあります。にもかかわらず、過去の栄光にすがりついて未来を見ようとしなかったことが敗因でしょう。
こうなることはだいぶ前から予想できたことです。というのも日本は、アジアの時代に対応するノウハウをほとんど持ち合わせていないんです。お家芸だったモノづくりの技術も周辺の他国に追いつかれていますし、コスト競争でも安泰とはいえません。しかもトップに立っているのは、徳川時代のお殿様のような2代目、3代目ばかりですから。封建時代に逆戻りですね。私は半世紀前に日本の時代が来ることを予想したことがありますが、今はちょうどその逆の見方で頭の中がいっぱいになっています。グローバル化の時代ですから、そのうちに国がなくなってしまうと考えてもおかしくはないでしょう。
――日本の高度経済成長のみならず、中国の飛躍なども予言されてきた邱さんに「日本がなくなる」と言われると、思わずドキッとしてしまいます。
もちろん、今すぐにそうなるということではありません。でも楽観はできません。人材は外へ流れていくし、みんなが釣りをしているところには魚がほとんどいなくなっています。お金もどんどん外へ出ていくし、気がついたら年寄りと怠け者だけが日本に残っているという構図が考えられます。昔は年寄りと子供と言いましたが、人口も減る一方ですから、子どももいなくなってしまいます。

宝の山が眠る中国の快進撃はまだまだ終わらない

――快調に成長している中国も、現在バブル期を迎えていると言われることがありますが、近い将来にその伸びが鈍化する可能性はあると思われますか?
中国はようやく日本の25年くらい前と同じ地点に到達したところでしょう。まだまだ成長の過程にあると言えます。たとえば「オリンピックが終わったら不況に突入するだろう」という見方がありますが、中国政府もそれを怖れていますから、今年から公共事業関連と環境保全に力を入れると思います。たとえば私のところで、中国に進出している日本の建機メーカーの一端を担っていますが、今年は品不足で供給を充たすことができてない状態が続きます。
何しろ、今の中国は、世界の工場になって世界中に物を売っていますから、同時に世界中の公害を一手に引き受けているようなものです。その公害の解消が、次の中国の大きなテーマになります。やらねばならない仕事はいくらでもあるのです。
また、今年から労働法が改正され、福利厚生を充実させなければなりませんから、病院や薬品が脚光を浴びます。 そういうところに目を向ければ、お金儲けのタネはいくらでも転がっています。
――邱さんご自身も、中国でさまざまなビジネスを展開されているそうですが、今はどんなことに着手されているんですか?
今やっている仕事は、お金儲けというよりも “社会が発展するプロセスで足りない部分を補う”事業です。たとえば、日本は不景気にもかかわらず人材が不足しています。今、お年寄りの面倒を看ている人が、やがて面倒を看てもらう側に移ります。また、農家の跡を継ぐ人がいなくなれば、農地が荒れてしまいます。そういうところで働く人を、私は中国で養成しています。
雲南省でのコーヒー栽培
そのほか、雲南省というところでコーヒーの栽培もしています。「将来、中国の13億人の人々が豊かになって、コーヒーに親しむ時代が必ず来る」と思って、ブルーマウンテンに負けないコーヒーのブランドを立ち上げました。これで4年経ちましたが、やっと知名度も少し上がったところです。
また、今は上海に「旧天地」という観光名所を作りにかかったところです。よその国の有名ブランドのコピーをする時代が終わって、いよいよオリジナルのブランドを作る時代に入ったと見ているのです。
邱永漢氏
邱永漢氏近影
作家、経営コンサルタント、経済評論家、実業家。1924年、台湾・台南市生まれ。東京大学経済学部卒業後、台湾、香港にて銀行や貿易で活躍し、1954年から日本に在住。1955年には小説『香港』で直木賞を受賞。以後執筆活動に入るが、その傍らで多数の事業を展開し、株式投資でも大成功を収めたことから、“お金の神様”“株の神様”と呼ばれる。著作は450冊以上。近著は『東京が駄目なら上海があるさ 』(PHPビジネス新書)、『お金持ちになれる人』(ちくまプリマー新書)など。
取材後記
次々とスケールの大きな話をしてくださった邱さんですが、座右の銘は「一生書生」。どんなに富や社会的地位を築き上げても、学生時代の一途な生き方を忘れない、という意味なのだそうです。「仕事は与えられるものではなく、作るものです。ですから年に関係なく毎日飛び回っています」。そう語る邱さんは、車に乗れずに歩いて移動していた学生時代と同じように、ひとときも現状に落ち着くことなく、世界中を飛び回っていらっしゃるのでした。毎日更新されるご自身のホームページ「ハイハイQさんQさんデス」(http://www.9393.co.jp/)では、そんな邱さんの頭の中をほんの少しだけ覗くことができます。今日はどの国の空の下で、コラムを更新されているのでしょうか。

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