2008-12-26

公的資金「売り転換」?! 世界最大投資家、“実像”に迫る

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)  川瀬隆弘理事長に聞く
相場急落下で主力株にまとまった買いが入ると、決まって使われる安直な相場解説が「公的資金の買い出動」。中には、いまだに「政府の意を受けたPKO(プライス・キーピング・オペレーション=株価維持策)」といった、“陰謀史観”の抜け切れない向きも。もちろん、10、11月にそれぞれ1兆円以上買い越した信託銀行の動向を踏まえれば、公的資金の買いは容易に想像が付くが、その“実像”は意外に知られていない。公的年金の運用メカニズムなどについて、資産総額100兆円を優に超す「世界最大の機関投資家」、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の川瀬隆弘理事長に話を聞いた。

公的年金の運用資産構成ウエートと「基本ポートフォリオ」
 9月末資産額構成比11月末推計
構成比
「基本ポート
フォリオ」
国内債券87553673.0177.967
(うち、市場運用)60564150.51
(うち財投債)26989422.51
国内株式12560210.478.511
外国債券984288.217.68
外国株式995888.369
短期資金13005
合計1199167100100100
(単位:億円、%、「11月末」は大和総研推計)    

 3月末までどう動く…


――GPIFの運用スタンスは?

「今年度末に、『基本ポートフォリオ』に沿った運用資産構成の実現を目指す(上の表参照)。相場変動によってウエートの下がった資産に新規資金を投入し、配分を見直している」

――日本株の構成比は9月末の「10・47%」から、11月末で「8・5%」に低下したとの試算(大和総研)もある。来年3月末までに、基本ポートフォリオの「11%」まで高めるのか。

「制度上、上下6%の許容幅が認められており、無理にキチッと合わせることはしないが、基本的には目標に近い線での着地を目指している」

 買い付けは通常月2回


――新規資金の額はどのくらいで、いつ配分されているのか。

「そもそも公的年金は、保険料として入ってくる額から給付額を差し引けば支払超過だ。新規資金がどこからもたらされるのかといえば、2000年の自主運用開始前の『財政融資資金への預託金』が毎年償還を迎えている。これが社会保険庁を通じて、おおむね月2回、月初と月半ばに配分されてくる。GPIFに今年度入る資金は、大体年間10兆円強といったところだ」

――買い付けタイミングはどうなっているのか。

「新規資金配分のたびに、ほどなく買い付けている。新聞などでよく『公的資金の買い』といった観測報道を目にするが、『昨日は買っていないのに…』と思うこともしばしばだ。ちなみに、最近あまり『PKO』などと言われなくなったが、運用に際して政治のプレッシャーを受けたことは全くない」

――公的資金は、株式市場で「安定的な下値買い主体」として、その動向が注目されているが…。

「その点で、大きな誤解がある。財政融資資金からの償還は今年度で終了し、新規資金配分はなくなる。年金特別財政のマイナス分はGPIFの積立金を取り崩して対応しなければならない。そのための『積立金』なのだから。株式市場にとって、来年度から公的年金は『売り主体』となる」

――5年ごとに見直す「基本ポートフォリオ」構築の前提として、「厚生労働省が予想利回り(現行3・2%)引き上げで調整」などと報じられている。結果的に、株式ウエート上昇につながるのではないか。

「単に『予想利回り引き上げ』と言っても、各種経済前提や、その時点での債券利回り、年金財政などをどう見込んでいるかによって異なり、一概に株式構成比上昇につながるとは言えない」

――自由民主党の若手議員らが掲げている、「世界最高のプロ」が運用する“日本版SWF”構想についてどう思うか。

「『プロがやったらうまくいく』と簡単に言うが、リーマンは、シティは、そしてゴールドマンはどうだったのか。われわれだってプロの運用機関に委託しているし、そもそも運用成績は『どういう資産にどのくらい配分したか』でほぼ決まり、マーケット変動から逃れられない。例えば、不動産などを含めた積極運用で知られるカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)の今年上期のパフォーマンスは『▼11%』。単純比較はできないが、GPIFは上半期『▼4%』だ。プロか、そうではないかではなく、リスクの量の差といっていい」(A)

0 件のコメント:

コメントを投稿