2009-02-25

ジム・ロジャーズ氏インタビュー

『ダイワ・コモディティインデックス・ファンド(ジム・ロジャーズ世界探検記)』ジム・ロジャーズ®氏インタビュー

  1. コモディティ市況
    小さなリバウンドはあるものの、依然としてコモディティ市場は低調に推移しています。加えて、エネルギー需要の落 ち込みは欧米の経済停滞によるものだけでなく、インド・中国でも深刻との声もあります。コモディティ市場が現在の 一時的な停滞を抜け出し、再び上昇局面へ転じるための条件としては何があると思われますか。

    ファンダメンタルズが向上あるいは改善しているのは、私が知る限りコモディティだけだ。例えば、肥料購入のため の銀行融資が受けられない農家がある。また、資金が調達できないために、ここ数年新たな鉱山が開発されていな い。一方で、現存鉱山の埋蔵量は枯渇しつつある。新たな鉱山を開いて、生産を始めるには10年間もかかる。国際 エネルギー機関は、信頼できる調査を行い、世界の原油埋蔵量は年間6.7%減少していると結論付けた。もちろん これは新たに発見された油田を含めており、もし今後油田が発見されなければもっと大きな数値になることは明白 だ。この数値が間違っていたとしよう。例えば6.7%の代わりに4-5%と仮定する。もし、何も起きなければ、20年後に は原油はなくなってしまう。従って、今後原油の供給は減少する。一方、我々の経済は世界的な景気後退にあり、 需要も減少する。需要と供給はともに減少するが、供給の減少スピードの方が速い。このようにファンダメンタルズが 良くなっているのはコモディティだけだ。
    1970年代には、世界は大変な不況であった。しかし、コモディティは、かなり値上がりした。1930年代、1940年代も 株式市場は不振であったが、コモディティは堅調に推移した。1987年には、国により異なるが株式市場が40%から 80%値下がりした。しかし、株式の強気相場は終わったというものはいなかったし、強気相場は終わっていなかった。 今回のコモディティ市場も全く同じことだ。我々は、ファンダメンタルズは引き続き改善しているが、ポジションの清算 が強制的に行われている時期にいる。何がきっかけになるか、私には分からない。しかし、現在世界中の国が大量 の紙幣を印刷している。これはいつもコモディティの価格上昇に繋がっている。上記のファンダメンタルズの改善と あわせて、コモディティにとって好材料が揃っている。

  2. 米国不動産市場について
    昨今の世界的な金融危機の根源である米国不動産バブルの崩壊により住宅価格の下落が続いていますが、一方 では2008年12月の米中古住宅販売が予想外に増加し、住宅市場が最悪期を脱したとの意見もあります。ロジャーズ 氏の、今後の米国住宅市場動向についてご意見をお聞かせ下さい。また、住宅市場回復の条件は何だとお考えで しょうか?

    米国の住宅価格は、これからも下がる。全ての地域ではないが、ある地域では大幅に下がるだろう。私の考えが正 しければ、農業は今後10年間好調だ。農業、鉱業、原油地域の近くに不動産を有しているならば、他の地域ほど値 下がりしないだろう。アリゾナ、フロリダ、カルフォルニア、ネバダ等の州で今起きている住宅差し押さえは、誰もが影 響を受ける。私は、景気が回復するために必ずしも住宅価格が立ち直る必要はないと思う。住宅価格の上昇は、経 済が回復している一つの兆候に過ぎないからだ。過去には、住宅価格は動かないのに株価は大きく上昇した時期が 何度かある。例えば1980年代には、住宅はそれほど良い投資対象ではなかったが、株価は大きく上昇した。住宅価 格の上昇はあくまで経済活動の一つの表れに過ぎず、景気回復をもたらす要因ではない。

  3. オバマ新大統領の政策について
    大規模減税案
    個人中間所得世帯および企業向けの大規模減税を実施し、個人消費の刺激および雇用創出を図るとのことですが、 長期的には米国の財政赤字に拍車をかけることになり逆効果との批判もあります。ロジャーズ氏のお考えはいかが でしょうか?

    減税は米国経済のためにならない。また、オバマ大統領は、日本の1990年代と全く同じ過ちを犯しつつある。減税 がいかなるものであろうが、それは主に低所得者のための政策だ。これでは景気を回復させることはできない。アメリ カ経済は、史上最悪の膨大な債務を負い、それを返済するのは1年や2年ではとても済まない。

  4. 米国のゼロ金利政策
    米国が史上初のゼロ金利政策を実施していますが、実質破綻企業の破綻を先送りしているとの見方もあります。また、 信用緩和の財源確保のために行っている米国債増刷が、米ドル・米国債の暴落を引き起こすとの意見もあります。ロ ジャーズ氏は現在の米国のゼロ金利政策及び信用緩和をどのように評価されますか?

    ゼロ金利政策が今後、非常に大きな問題を残すだろうという意見に私は賛成する。それは、米ドルが今後益々その 地位を失うということであり、また債券市場で莫大な額の米国債を吸収しなければならないということだ。
    私は将来、高金利・高インフレになると思う。2007年のインフレが顕在化した時に、金利を下げる代わりに、もし金利 を上昇させていれば非常に辛い2年間を経験したかもしれないが、今頃、景気後退は終わっていただろう。今、瀕死 の企業を救済し、日本の1990年代と同じ過ちを犯そうとしている。日本は失われた10年を経験した。まるで、米国も 同じ轍を踏んでいるように見える。ことによると、今回の米国の方が、問題の解決には日本よりも長い時間が必要だ。 何故なら、当時日本は貯蓄率が高く債権国でもあった。一方、今の米国は世界史上最大の債務国で、しかも貯蓄は ない。
    現在、私は米国債の空売りのポジションは取っていない。以前は空売りしていたが、FRBのバーナンキ議長が米国 債を買うと発言したので、多少の損は出たが手仕舞った。しかし、空売りの機会は今でも狙っている。

  5. 中国の米国債保有
    2008年に中国が日本を抜いて世界最大の米国債保有国になりました。この背景には、米国に対しての外交上の発 言力及び対米輸出力を高める狙いあるように見受けられますが、今後ロジャーズ氏が予想されるように米国債が下 落すれば、最大保有国である中国に多大な損失が想定されます。大量の米国債発行が予想されるなか、今後中国 はどのような戦略をとるべきなのでしょうか。また中国が買い増しを行わない場合、誰が大量の米国債の買い手となり 得るとお考えでしょうか。

    もし私が中国であるならば、米国債を満期まで保有するだろう。そうすれば市場を混乱に陥れることはないし、軍事 的あるいは外交的な行動にも出ることはない。もし、中国が米国債を買わなくなったら、一体誰が買うのか、私には分 からない。日本銀行が買っても、中国の分を全て吸収することはできない。中国のみならず、韓国やシンガポール台 湾が米国債の購入を停止するあるいは減少することを考え始めている。
    米国政府の債務は、昨年、3倍ないし4倍に膨れ上がった。2年、3年後には、信じられないくらい大きな数値になる だろう。米国政府は、ファニーメイ、フレディマック、AIGの債務も負担している。更に米国政府は、これらの3社がバラ ンスシート外に保有する数10兆円におよぶデリバティブにも責任があるのだ。これらの額は余りに莫大で、米国政府 でも一体いくらあるか正確に把握しているのか疑わしいものだ。ファニーメイもフレディマックもAIGも自社の財政状態 を十分理解していなかった。だからきっと、我々の想像よりもずっと大きな数値であろうことは、間違いないだろう。

  6. 日本株・円見通し
    日本を代表する企業が営業赤字を計上するなど苦しい状況が浮き彫りになってきていますが、現在のロジャーズ氏 の日本株の見通しをお聞かせ下さい。また、円に対して依然強気でしょうか。

    日本株は少し持っている。前に話したとおりだ。このところ日本株はさっぱりだ。しかし、私は依然として日本円に対 して強気だ。市場の力は、日本銀行や経済産業省よりも強大だ。日本円は、過去最高の80円まで行くかもしれない。 いや、勢いに乗れば、過去最高を更新するかもしれない。その時は、日本円を売るというのが私の計画だ。何故なら 日本もまた、多くの問題を抱えているからだ。実際にそのようなことが起きて円を売ったら、その次に資金をどこに投 資するのか非常に困難な問題だ。世界中の貨幣価値が低下しているので、全てコモディティにつぎ込むかもしれな い。

  7. 魅力的な投資対象
    現在の深刻な金融危機の中で、底を打ったと思われる投資対象はありますか。あるようでしたら具体的な資産とその 理由、背景をお教え下さい。

    昨年10月と11月に中国株を少し買った。そして、コモディティと日本円も買い増した。私は、これらの資産は、底打 ちしたのではないかと願っている。何故日本円か、何故コモディティが良いかは、すでに説明した通りだ。中国の株 式市場は、1年もの間悲惨な状況が続いた。そして中国政府は財政出動を行い始めた。中国と米国の一つの違いは、 中国には経済を改善する準備金があり、米国にはないということだ。米国は、債務国で余裕はないのだ。米国は、中 国やシンガポールあるいは他の準備金がある国のようには、上手くいかないだろう。

  8. ロジャーズ航空会社インデックスについて
    指数について下記の事項についてお教え下さい。
    ・設定した経緯
    ・今後、原油価格が上昇した場合の指数への影響
    ・時価総額で比率を決めた理由
    ・特に注目している航空会社

    ・航空会社の株価も底を打ったかもしれない。私は、航空業界は世間が考えているよりも上手く現況を乗り切り、業績 を伸ばすと考えている。もちろん、世間の人々は、景気後退が航空会社にとって大きな障害と思うだろう。しかし、今 後それほど多くの航空機が供給されないし、しかも数多くの航空機が引退する。従って業界全体のキャパシティが減 少する、これが私の見方だ。また、景気が悪くとも人々が旅行を完全に止めてしまうことはない。最悪の期間が終了し た時には、航空業界は人々の予想よりも優れた業績を示し、私を含めて多くの人々を驚かせるに違いない。
    ・もし原油価格が上昇したとしても、航空会社はどのようにして自分たちを守るのかよく分かっている。想像するに、原 油価格が上昇した時には株価が下がって、インデックスのパフォーマンスが多少損なわれることがあるかもしれない。 これは、原油価格や景気の後退やその他諸々の事象に対して、航空会社が人々の思惑よりも上手に対処し、我々 を驚かせることの一部でもあろう。これが、航空株が有望と考える理由だ。
    ・市場の時価総額、あるいは他の何かで加重平均するかは、議論の分かれるところである。RICI®指数では、原油は オレンジジュースよりも重要なので、高いウェイトになっている。同じようにある航空会社は他社よりも重要だ。市場の 時価総額がベストな方法かどうか私には分からない。しかし、我々は何かを選択しなければならない。時価総額によ る加重平均は、すべての航空会社を等しく扱う単純平均よりも優れていることは確かだ。いつの日か、もっと良い方 法が見つかるかもしれない。皆さんからの提案は大歓迎だ。
    ・日本航空を含めて、複数の航空会社株を保有しているが、アメリカの航空会社株は全く持っていない。持っている のは、アジアとヨーロッパの航空会社だけだ。

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