2009-02-12

もう甦らないアメリカ経済

ジム・ロジャーズ インタビュー by 大野和基

金融危機はまだまだ続く

現在起きている危機には、金融危機と経済危機の二種類かあります。まず、金融危機はまだまだ続きます。経済危機に至っては、さらに長く続くかもしれません。通常は経済が底を突く前に市場が底を突きますが、今回もそうなると思います。にもかかわらず、世界中の政治家たちは間違いをしつづけ、状況はますます悪化しています。

ご存じのように、1930年代に起こった大恐慌は、初めはたんなる株式市場のバブル崩壊でした。そこから景気後退(リセッション)が起こりましたが、そのとき世界中の政治家は次から次へと間違いを犯し、大恐慌を招いたのです。現在のように政治家が間違いつづけるかぎり2009年に景気が回復することはありません。まだまだ長い道のりがあります。われわれはいま、政治家が何をするか、静観するしかありません。

今回の危機を受け、最近よく「投資銀行のピジネスモデルは終わった」という人がいます。しかしそれは正しくありません。たしかに投資銀行は多くの間違いを犯し、その結果、ベアー・スターンズもリーマン・ブラザーズも破綻しましたが、しかるべき人たちかピジネスモデルを適切に実行していれば、何の問題もなかったのです。事実、世界中の投資銀行をみても、過ちを犯さず、困窮していないところぼたくさんある。問題はピジネスモデルではなく、投資銀行を運営する人問のほうなのです。


彼らはどういう、間違いを犯したのでしょうか。世界中には「理論上のおとぎの国」はたくさんありますが、正しい実行方法を知らないと失敗します。たとえぱ私は100メートル走を非常に速く走る方法を説明することはできますが、実際にはそれほど速く走ることはできません。どのように走るぺきか完全に理解してていても、世界記録を打ち立てることはできません。成功しようと思えぱ、実行ができなければならないのです。

投資銀行はサブプライムなど多くのモーゲージ(不動産を担保にした貸付)のところに楽に儲かるお金があると勘違いし、その前提で理論を組み立てたのです。初めはモーゲージ証券を使ってまともなピジネスを行なっていたのですか、あまりにも楽をしすぎて、質がどんどん落ちていきました。だからその対象をどんどん拡大していったのです。

彼らがやっていたことは、自分のためにできるだけお金を稼ぐということだけで、ほとんどの会社は投資銀行がいったい何をしているか、よく理解していませんでした。彼らはそのまま狂ったように拡大路線を走り、最終的にはそのシステム全体が崩壊したのです。

投資銀行だけでなく、証券化もよく批判の対象に上ります。しかし、投資銀行の場合と同じく、健全なやり方がとられていれば、証券化には何の問題もありませんでした。

わかりやすい例を挙げましょう。私はポルシェでアメリカを横断した人を知っていますが、彼は暴走し、クラッシュして死んでしまいました。このとき悪かったのはポルシェだったか。あるいはその間違いを犯した男だったか。明らかに男ではありませんか。証券化もポルシェと同じです。健全でかつ慎重に行なえぱ、何の問題もないのです。

とにかく何もかもが証券化されてしまったこと。これが最大の間違いだったのです。これはおかしい、と私を含めて警鐘を鳴らした人もいましたが、当時は誰もがあまりにぽろ儲けしていたので、その声に耳を傾けられることはありませんでした。当事者たちは、できるだけ会社からお金を取って逃げたかった。その心性が今回の危機を引き起こしたのです。

アメリカ型消費モデルの是非にしても同じことです。ここまで危機が進んでも、過度な借入資本に頼らないで済んでいる人はアメリカにはたくさんいて、彼らにとっては物価が下がって望ましい状態となっていますから、これからもどんどん消費を行なうでしょう。いまならもし欲しければ、湖畔の家が買えます。かなり安くなっているはずです。

しかしもちろんトータルでみれば、アメリカの消費はこれから滅少していくでしょう。多くの人が、過度に借入資本に頼っているのは事案だからです。


グリーンスパンは最悪のバンカー

今回の一連の危機がきっかけとなって、政府は規制の方向に向かおうとしています。しかし、規制は事態をさらに悪化させるだけです。監督機関はいま何をすべきか、まったくわかっていません。

皮肉な言い方ですが、最善の規制は、問題のある組織を倒産させることです。1998年にLong Term Capital Management(かつてアメリカのコネチカット州に本部を置いたヘッジファンド、ノーペル経済学賞受賞者が取締役会に名を連ねた)を倒産させていれば、現在のような状態にまで事態は進まなかったでしょう。あの時点で倒産していれぱ、ベアー・スターンズもリーマン・ブラザーズも大きな打撃を受けたでしょうから、彼らがそれから始めたようなピジネスは実行できなかったでしょうし、やる気もなかったに違いありません。

いちばんの問題は、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)にあります。FRBは誰も倒産させてはいけない、救済しなくてはいけない、と言い続けました。前議長アラン・グリーンスパンの言葉を借りれば、"Nobody could fail."です。しかし繰り返しますが、もし10年前にLong Term Capital Managementを倒産させていれぱ、今日発生したような問題は起こらなかったのです。

グリーンスパンは誰も倒産させませんでした。ゴールドマン・サックスなどウォールストリートにいる友人たちが彼に電話して「救ってくれ、救ってくれ」というたびに救済していたのです。グリーンスパンはそれほど頭かいい人ではないので、そうしてしまった。その代償をいま、世界中が払っているのです。

2008年10月に米下院で開かれた公聴会で、グリーンスパンは自分が間違っていたとはいいませんでしたが、「金融機関を信じたのが間違いだった」と発言しました。正気の沙汰ではありません。彼がやったことは明らかに間違っていましたが、そもそもグリーンスパンかあのような輩を救済していなかったら、彼らも間違いを犯さなかったでしょう。前回のインタピュー(Voice 2007年12月号)でも話しましたが、グリーンスパンは世界史上最悪のセントラルバンカーとして歴史に残るでしょう。そして現議長バーナンキのFRBも失敗します。グリーンスパンとパーナンキのどちらが悪いバンカーかはいえませんが、どちらも最悪であることは間違いありません。

今回バーナンキは大量に紙幣を印刷し、すべての不良債権を引き取ってFRBのパランスシートの債務を3倍に増やしました。これを誰が負担するのか。アメリカの納税者です。その結果、システム全体がひどく弱体化していく。彼らは自分で何をやっているか、わかっていない。毎日、"Oh, my God!"、と叫んでパニックに陥っているだけです。一歩引いてアプローチが間違っていることに気づけぱいいのですが、彼ちにはそうする時間もなく、脳もありません。愚の骨頂です。本当に間抜けです。

そういう意味で、ブッシュ政権の財務長官ポールソンがリーマン・ブラザーズを救済しなかったのは賢明な判断でしたが、ファニーメイ(連邦柱宅抵当金庫)、フレディマック(連邦住宅貸付低当公社)も倒産させるべきだったし、AIGもそうすぺきでした。ファニーメイとフレディマックだけで、5兆~6兆ドルの負債があり、ある週末だけで、国の借金は2倍以上になりました。ファニーメイが破綻するだろうことを2007年に私は予想していましたが、そのと通りになりました。

彼らが理解していないのは、ファニーメイとフレディマックの簿外の負債がどのくらいあるかです。おそらくその金額は何十兆ドルに上るでしょう。気の遠くなるような数字です。それも連邦政府は肩代わりするといっているのですから、これでアメリカは終焉です。ボールソンは自分が何をしているか、まったくわかっていません。私は見たことがありますが、そもそも彼はファニーメイのバランスシートを見たことがないでしょう。『ヴァニテイ・フェア』という雑誌にポールソンが過去2年間で行なったことがリストになっていましたか、そのどれを見ても、すべてが間違っていました。彼はそもそも会社人間で、元はといえぱゴールドマン・サックスの会長です。しかし経済や市場について業績を残して会長になったわけではなく、ゴルフや会食をしただけでした。ゴールドマン・サックスの現社長は市場について元会長よりもはるかに深い理解をもっていますが、ポールソンかゴミを大量に残していったので、もう手遅れです。

すぺてがボールソンのせいではなくても、いま起きていることはこれから彼のせいにされるでしょう。あれだけ輝かしいキャリアを積んできたのにかわいそうなものです。間違いをしつづけて自分のキャリアを台無しにしているのですから。

結局いま起こっていることは、かつて日本でも起こったように、自信のある人から資産を取り上げ、自信のない人に配分している、ということです。システム全体は自信のある人か多くの資産をもって再出発しなければ始まらないのに、そうすると弱体化したまま留まってしまう。モラリティが低くなっていますが、政治家はそんなことを気に掛けもしません。ほったらかしです。数年たてば、それがどんなに間違いだったか、わかるでしよう。

もっかの話題はGM、クライスラー、フォードの「ビッグ・スリー」の救済でしたが、破産させることがいちぱんましな選択肢だったでしょう。これを機にすぺての借金や債務を一掃し、やり直すべきだったのです。彼らがいま行なっているのは、従業員の年金と医療費を払っているだけで、破産宣告すれば、借金はぐっと少なくなり、負担も減る。そうすれぱ、再ぴ競争力が付いてきます。彼らがどれほど想像力をたくましくしてもトヨタにはなれないでしょうが、破産したほうがよくなっただろうことは間違いありません。


ドル支配の時代は終わる

そのアメリカで1月20日、オバマが第44代大統領に就任します。私の見るところ、彼は二つのプランをもっています。一つは、資本に税金をかけることです。このときお金を貯めて投資する人にも税金をかけるようですが、現在世界では資本が深刻に不足しています。そういうときに税金をかけれぱ、資本ほどんどん逃げていく。正気の沙汰ではありません。

もう一つは保護主義です。オバマは自国の労働者を守りたいと考えています。しかし世界は、保護主義がつねに悪いということを幾度も学んだはずです。それは1930年代の失敗の主な原因の一つだったではありませんか。保護主義は短期的にはプラスになると考えがちですが、じつはそうではなく、いつもマイナスになるのです。1930年にアメリカは国内の失業対策としてスムート・ホーレイ法を制定し、外国製品にきわめて高額の関税をかけました。これがきっかけで各国での関税の引き上げ合戦が始まり、世界貿易は縮小していったのです。オバマが本気で保護主義を考えていないことを望みますが、もし本当にそう考えているなら、ますます経済は悪化するでしょう。

オバマが大統領になって行なう経済政策がよくないことを皆知っていたので、大統領に選ばれる前から、景気は悪化しはじめたのです。いま私がオバマの立場ならどうするか。すぐにFRBを廃止し、すぺてを倒産させて辞任するでしょう。

認識しておかねばならないのは、アメリカには現在のような事態が起こることを手ぐすね引いて待っていた投資銀行やブローカーがたくさんいることです。彼らは、このような事態が起こるだろうことを理解していました。当事者が馬鹿であることはわかっていましたが、彼らは自らが市場を占有すぺく、じっと待っていたのです。しかも政府がこの輩から負債をもっていってしまったので、システム全体が弱体化してしまった。だからアメリカは衰退の一途をたどっているのです。

オバマが大続領になることはかなりはっきりしていましたが、もしマケインが就任していれぱ、彼はガンですから任期中に亡くなる可能性があります。もし亡くなれぱ、サラ・ペイリンが大統領になったでしょう。彼女は政治のことも外交のこともまったく無知であるといわれますが、かえってそのほうがよかったのかもしれません。下手に何かを知っていると事態を悪化させるからです。彼女はイラクがどこにあるか知らないので、イラクに侵攻することもないでしょう。そもそもイラクという言葉を聞いたこともなかったようです。

これからアメリカの実体経済はどうなって、いくでしょうか。第二次世界大戦以来、最長の景気後退を迎え、1930年代の景気後退にそれは匹敵するでしょう。日本は「失われた10年」を経験しましたが、アメリカもこれから同じことを経験するのです。10年にならないとよいのですが、どうもなりそうな気配かします。これからアメリカは段階的に下降していくでしょう。長期的に見た場合、アメリカに楽観的な考え方をもつことはできません。

第一次世界大戦か終わったころ、イギリスは世界でもっともパワフルな国家でした。そこから突然落ち込んだのではありません。50年間かかって沈んでいったのです。北海油田を発見するまで衰退は続きました。北海油田が見つかっていなければ、もしかしたらザンピアと変わらない経済状態だったかもしれない。そこまではいかなくても、現在のギリシアくらいであっても不思議ではなかったでしょう。そのイギリスと同じように、すでにアメリカは衰退の一途をたどっている。だから私はアメリカを離れ、シンガポールに移住したのです。

現在のアメリカのアプローチは紙幣をたくさん印刷することですが、いってみれぱ、これは人為的な復活です。紙幣を印刷すれぱするほど、ドルはそれだけすべての人にとって望ましくない状態になる。いずれこれ以上はいかない、という部分まで進んでしまえぱ反発があるでしょう。

2008年10月半ぱ、私は空売り株の買い戻しをたくさん行ないましたが、正しかったかどうかはわかりません。反発があるかもしれないからです。私の考えではまだ最悪の状態には至っていません。2009年、2010年、事態はもっと悪化するかもしれません。

アメリカの衰退を受け、ドル支配の時代も次第に終わりつつあります。基軸通貨としての地位をまだ維持していますか、それを失う方向に向かっているのです。現在は反発が生じてドルが上がっていますが、ある程度それは予測できたもので、皆が莫大な売りもちの金額を清算せざるをえない状況に追い込まれているからこそそれは生じているのです。この反発を利用して、タイミングは悪いかもしれませんが、私は早めにドルから脱却することを計画しています。反発のままに任せておけぱ、このまま本当にドル覇権の終焉を見ることになるでしょう。

アメリカだけではなく、イギリスもいま急速に衰退しています。ポンドは下落し、イギリス経済全体ももうわずかで崩壊する、といっても過言ではありません。ニューヨークはまだ終わっていませんが、ロンドンはもう終わってしまった都市といってよい。

ニューヨーク、ロンドンはこれからの金融センターにはなりません。どちらも銀行に問題を抱え、ひたすら衰退の道を歩んでいます。バランスシートもなけれぱ、しかるぺき人もいないまま、すぺてが運営不能になっている。ドルとポンドが落ちぶれた通貨であることに、皆は気づきはじめました。

人々は他の通貨を探しはじめていますが、それはユーロ以外にありえません。しかしユーロにも欠点かありますから、この2、3年のあいだ、世界は本当に混乱する可能性があるでしょう。

現在、円に対してドルが弱くなっていますが、他の通貨に対してはそうではありません。この状態で保護主義になると、volatility(予想変動率)が大きくなり、それが外国為替市場に入ってきます。商人たちはコストを知るために安定性を求めますが、この状態ではますます不安定になるだけです。ドルがもう一度下がりはじめたら、そのときにはさらに多くの人が損をして、形勢は不快な方向に展開しつづけるでしょう。

逆にいま、アジアに大きな注目が集まっています。新しい金融センターとして、まだどこも浮上はしていませんが、香港とシンガポールが健闘しています。日本にも頑張ってほしいと思っていますが、どうもその能力かなさそうです。韓国も努力はしているでしょう。

一部では今回の打開策として、新しいプレトンヴッズ体制のような仕組みが議論されているようです。しかし、これは何を意味しているのかまったくわかりません。もしそれが変動相場制をやめて固定相場制に戻す、という意味ならば、もう狂気の沙汰といってよい。最善の策は私が支払いをもちますから、皆でバーに行ってピールを飲んで、そのまま忘れてしまうことです。飲みすぎて何をいったか、翌日には忘れているでしょう。


アメリカの農業に注目せよ

最後に産業を見てみましょう。現在、世界中で景気後退が起こっていて、衰退していない産業を思い付かないほどです。世界で最大の経済大国であるアメリカが景気後退をして、影響を受けない国はない。アメリカと深い関係にある日本もまともに影響を受げるでしょう。すでに日本の自動車産業はかなり打撃を受けています。

エネルギーはこれからどうなるでしょうか。現在の状況が石油や金属など資源に与える影響は計り知れません。ローンが組めないので、亜鉛、ニッケルの炭鉱は閉鎖され、価格は生産コスト以下になっています。エネルギー価格も下がっています。風力発電と競争しなくてもいいほどです。太陽発電も同じ。いま効率よくエネルギーを供給している人は儲けるでしょう。IEA(International Energy Agency 国際エネルギー機関)がちょうど研究結果を発表しましたが、世界のエネルギー埋蔵量は年に6~7%の率で下がっているということです。すぺての油田に行って調ぺたのです。エネルギーについていえぱ、石油が問題になるのはそう遠くありません。

このような状況下における投資対象は何でしょうか。儲けるためには、ファンダメンタルズが無傷であるものを見つけることです。それが無傷である唯一のものは商品、なかでもとくに農業です。

アメリカにはいい農業かあります。政府から助成金を受けてはいますが、それでも得意分野です。現在、世界で起こっていることは、農業にとっては望ましいことなのです。肥料やトラクターを買うたあのローンを組むことができないので、そのぶん、純粋に農産物の生産に力が注がれます。

現時点で人々はすぺてのものを売っています。ファンダメンタルズにかかわらず、強制的にすぺてを清算しているのです。過去150年間を振り返っても、このような時期は8回、9回くらいしかないと認識すペきなのです。

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