1999-01-05

リンダ・ブラドフォード・ラシユキ、テクニカルを語る

 我々が利用したり、市販のプログラムソフトに組み込まれている指標の90%は価格を基に作成されています。これは、それらの指標が常に一歩遅れることを意味します。標準偏差やADXなどのボラティリティー指標、オシレーターやモメンタム・オシレーターなどの指標はすべて一日遅れ、または1バー遅れで初めて利用できるものです。ですから、全体的なマーケットの構造における現在の値位置というものに注意する必要があります。そこでテクニカル分析の出番となるのです。
 テクニカル分析は「どんなトレード機会が現れたのか?」ということを我々に知らせてくれます。我々には建玉するためのシグナルが必要です。例えば、トレンドラインを抜けた時に建玉するとか、パイ・ストップ、ボラティリティー・ブレークアウト・システム、高値引けした時に買い建てる、または安値更新を試した時などに建玉するというように。建玉するための機会が訪れたら、その後は実際に建玉する条件が現れるかどうかに集中すれば良いのです。
 トレーディングを構成する第三の要素とは、もちろんトレード管理です。先程紹介したテクニカル分析の元祖4人は皆、ストップ・オーダーを利用することの重要性を強調しています。その理由はもしかすると、皆さんが考えているようなものではないかもしれません。彼らには人間の本質を見通す能力が備わっていました。もちろん私自身もストップ・オーダーを使います。トレード管理の面から、また自分自身を守るため、自信を失わないため、そして最後に最も重要なことですが、トレードする勇気を得るためにストップ・オーダーを使うのです。なぜなら、先程話したように、テクニカル指標のシグナルというものは、時に皆さんを瀬戸際まで追い込んでしまう可能性を残しているからです。しかし、「よし、リスクは3ポイントに設定してS&P 500 を買い建てよう!」と事前にプランを立てておけば、最悪の結果が訪れて失う金額さえも事前に把握しておくことができるのです。また、トレードに対する耐久性も高まります。トレード管理がどれだけ重要かということを理解していただくのは、もう一つの理由があります。もし皆さんが建玉し、その玉を上手く管理できれば、要するにストップ・オーダーを入れておくということですが、このストップ・オーダーをトントンを確保するところまで引き上げたり(買い玉に対して)、またワイコフが薦めているように手数料をカバーできるところまで引き上げることで、トレンドが変わってしまうという恐怖から、すぐに利益確定に動いてしまうということを避けることが可能になるのです。これはとても大切なコンセプトです。なぜなら、私は「普通のトレーダーはすばらしいトレード機会が訪れた時に、すぐに利益を確定してしまうという最も犯してはいけないミスを犯してしまうものだ」と考えているからです。マーケットが強気のときに売り、弱気に傾いた時に買ってみてもいいでしょう。 10回に1回ぐらいは上手くいくかもしれません。もし週足と日足チャート上にトレード機会が現れ、さらにトレード管理についてしっかりと理解していれば、そのことを理解していない場合に比べ、より長くそのトレードを維持することができます。こういった意味でも、トレード管理は我々の心理的側面をコントロールすることに効果を発揮するのです。
 テクニカル分析の元祖4人は皆、1900年代前半に本を著しています。それらの本のどこかで彼らが言及している「トレード心理の5基本原則」について話したいと思います。第一に、彼らは皆、マーケットに身も心も捧げていたということを理解していただきたいのです。チャートを勉強し、歴史を学び、絶えず執筆活動を行い、アドバイザリー・サービスに従事し、実際にトレードし、、、。四人のうち二人は重い病気を患っており、チャートを勉強することくらいしかできなかったのですが、、、。何を言おうとしているかというと、彼らにとってマーケットは人生そのものだったということです。彼らは真剣にマーケットについて研究していたのです。常にチャートを見て、マーケットの動きを研究しました。そして、マーケットの本質を先程紹介したようなシンプルなコンセプトにまとめあげることに成功したのです。アクション→リアクション、トレンドの定義などですね。ただ、ここで理解していただきたのは、このようなコンセプトはそれ以前に一度も紹介されたことがなかったのです。この点、一般投資家の方途が実際にトレードする勇気を与えられたのも当然と言えるかもしれません。それ以前には彼らも、こういったコンセプトを公表してはいませんので。必然的に一般投資家の方達も株を売買しようという気になったのでしょう。まさに新たな現象といってもいいくらいでした。
 このように彼らは皆、マーケットの研究に没頭していました。そして、その研究はすべて「手書き」で行われたのです。チャートを手書きし、ノートをつけていました。私は個人的には、こういった努力が成否を決める最も大きな要因になると思っています。時間をかけて研究を行い、ノートをつけ、毎日数値を書きとめたり、バー・チャートを手書きしているような人達は、このビジネスで生き残れる人達だと言えます。
 ここで一つ面白い話を紹介しましょう。数年前、シカゴでビジネス・パートナーであるさくらデルシャー証券を訪れた時の話です。そこで以前CME(シカゴ・マーカンタイル・エクスチェンジ)の会長を務めていたレオ・メラメッド氏に会う機会がありました。彼はかなりの期間に渡りマーケットに間わってきた人です。彼のオフィスに一歩足を踏み入れると、50万ドルもするような芸術作品に囲まれ、さくらの木で作ったパネル、ゴージャスなデスクなどが並んでいました。そのデスクにはボタン一つで、5センチほどの隙間から自動的にスクリーンが現れてくるような仕掛けがされていました。そこにあるものはすべてボタン一つで操作できるようなものばかりでした。そんな彼のデスクの上に何かあったかわかりますか? 何かが散乱していたというわけではありませんよ。そこにはチャート、鉛筆、グラフ用紙、それに小さな定規があったのです。彼は「ちょっと見てごらんよ! これが何だかわかるかい? これはヘッド&ショルダーだよ! ヘッド&ショルダー!」なんていう感じでした。ただ彼はいつも売り方に回るというバイアスがかかっていたようでしたけど。私はどうするべきか、それから5分程考え続けましたね。結局、私はそのトレードで失敗することを回避できましたねどね。しかし、同行した私の友人は「見ろよ! あのレオ・メラメッドが手書きでチャートをつけているよ!」と興奮気味に私の袖口を引っ張ってましたけどね。その時、メラメッドは1時間足のチャートを付けていました。
 マーティン・シュワルツというトレーダーがいます。彼はここフロリダに住んでいます。我々の所から3~4時間程南に行ったところです。彼も1時間のバー・チャートを手書きで付けています。手書きでチャートを付けているのです。これまでティックやプレミアム・レベルをつけている人達も見てきました。こういうことは場勘を養う上でとても大事なことであり、マーケットに対する自信を深めることにもつながります。
 そしてテクニカル分析の元祖4人は皆、かなりの時間をこのような紙と鉛筆だけを使った研究に費やしたのです。私はこういう基本的なことが今日では少し過小評価されているように感じています。彼らの文章の行間に隠れていることを読みとろうとすれば、こういう基本的なことを繰り返し言及していることが理解できるでしょう。
 彼らが理論を構築し、マーケットの構造的特徴を見抜いていたことを理解しても、理論と現実の間には違いがあるものです。いいですか、ワイコフあるパターンが起こるシークエンス・モデルを開発したにもかかわらず、「マーケットというのは毎回違う動きをするものなんだよ」と言うに違いありません。
 エリオットがどんな事を書き残しているかご存知ですか? エリオットが書いたことは、、、。実際には彼が書いたわけではなく、他の人が書き残したのですが、、、。彼はその著書で、自分の構築した理論を実践に移すのに3年もかかったと告白しています。彼はあの「エリオット波動理論」を構築した人ですが、その彼でさえ理論を実践に生かせるようになるまで3年の月日を要したんですよ。我々ならどの位の月日が必要になるのでしょうか?
 理論と現実は全く異なる二つのことですが、マーケットの構造、モデルを常に頭に入れておくことは大切なことです。

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