1998-01-03

林輝太郎・ダイワフューチャーズ講演

3.確率と錯覚  

 次に、3番目の話です。この頃、転職することが普通になってきています。今、売れているいろいろな本の中に<なるにはブックス>というのが在りまして、『パイロットになるには』『スチュワーデスになるには』『○○になるには』という本がよく売れています。 しかし、その中に
『相場師になるには』という本が無いんです。それから、カルチヤーセンターというものがあちこちに在ります。『源氏物語のお話』とか『外国語教室』或いは『ピアノ教室』とかいろいろ在りますが『相場教室』というのは在りませんね。どうしてでしょうか?あまりにも本音と建前が違うからですね。
 先程申し上げた通り、私は72歳です。もともと建前論というのが嫌いですので、これからのお話も全て本音の話をしようと思います。本音の話というのは非常に抵抗を受ける。それでも、やはり本音の話をしたい。建前論なんかしたくない。これが3番目の話です。
 今日の講演は4時までですが、途中で10分ぐらい休憩します。それまでは相場に対する考え方とか、或いは、先程申し上げたギャンブラーの錯覚とか誤謬という話をします。これは数学でちゃんとある言葉で、この考え方の違いや間違いの具体的な話は、休憩後にしようと思います。
 先程申し上げましたが「私が相場で1000万円近くまで儲けても、また損してしまう」ということを繰返していた時、建玉を控えめに抑えるというのは、「あまりにも消極的ではないか」と、皆さんに言われるかもしれませんが、これは違うんですよね。それについての話しをこれから展開していきます。
 先日、私の自宅の資料室に訪ねてきた方がいます。自宅の資料室のほうが会社よりも大きいのですが、明るくて、広いので集会には都合が良くて、時々そこで討論会などもします。その方は「パソコンが大好きで、3年間、寝る間も借しんで70%当たる確率の指標を発見した」と言うの です。それから「しかし、これでは物足りないから、あと10%確率を上げたい。そうすると、利益金が50%増えるので、その為に林先生のアドバイスをいただきたい」と言ってました。70%の確率を80%に上げると利益金が50%増えるー。皆さん、計算できますか?簡単な計算なんです。皆さんにお配りした資料の中に『確率と損益金は比例しない』
 としていますが、その人は比例すると考えている。本当は比例しないんだけれども、仮に『確率と損益金が比例する』という前提でお話します。
 元金1000万円で取引する。 70%当たる、つまり30%は外れるわけです。そうすると、1000万円で700万円儲かるが、300万円は損しますから、差し引きの純利益金は400万円です。80%当たると利益金が800万円で、損金が200万となり、差し引き600万円の純利益金になります。先程の400万円の純利益金が600万円になりますから、50%利益金が増えますね。本当に70%当たって損益金がそれに比例するならば、その人はたちまち世界一の大金持ちになれる.私のところになど来る必要はない。
 パソコンの好きな方がやっていることは『確率の高い指標を発明しよう』とか『組み合わせて儲かる指標を作ろう』とか涙ぐましい努力をしていますが、これは数学的に見ても絶対に不可能です。
 トランプのブラックジャックという賭けの確率の計算を『カードカウンティング』と言いますが、これをしたアメリカの大学の数学者がいます。
 その計算によると当たる確率が5 0.3%、外れる確率が4 9.7%で、その差はたった0.6%です。それでも何故これが有名なのかと申しますと、世界一の確率だからです。これ以上の確率のものは世の中に在りません。
 70%当たる!-それならば、私のところに来る必要はないのです。
 儲けてキャデラックに乗って、美人秘書を連れて、美味いものを食ってヤいられる。そんな確率(70%とか80%のような確率)は世の中に存在いたしません。そのような確率が存在するといったような錯覚のことを『ギャンブラーの誤謬』と言います。
 サイコロジカルラインという指標が在りますよね。これは、上がった時は白丸、下がった時は黒丸といった具合に星取表で表示するものですが、これについても同じことが言えます。例えばサイコロを振って、丁が10回読いて出た。次の11回目は「半の可能性が高い」と思うのは錯覚ですね。確率は二分の一に決まっている。
 この『ギャンブラーの誤謬』というのは数学の世界では有名です。一週間に5営業目ありますが、もし価格の予測が『高い、高い、高い、高い、高い』もしくは『高い、高い、安い、高い、安い』となった場合、どちらの方が可能性が高いのか?数学の用語で生起確率と言いますが、この確率からすると両方とも可能性は0.031で同じです。こういう錯覚のことを『ギャンブラーの誤謬』と言います。
 例えばトレンド、或いはRSI(相対力指数)・RCI(順位相関係数)といったようなオジレーターなどいろいろな指標が在ります。仮に60%当たる指標が存在するとします。そして、もう一つ60%当たる指標が在る。それらを上手く組み合わせて確率を高めようとするのは、数学的にも理論的にも絶対不可能です。0.6十〇.6=1.2にならないのです。0.6×0.6=0.36になるので、確率はぐんと下がる。だから、お渡しした資料のパソコン利川のところにも併用不可と書いてあります。
 パソコンが世に出てから十数年経ちますが、パソコンを使って財産を築いた人が果たしているのか?私もいろいろなツテを求めて調査し、そのような人に直接会いましたしかし、十数年でたったの2人です。パソコンはすごく便利な道具です。パソコンを使えば必ず儲かるというのなら、誰だってパソコンを使いますが、実際はそんなに儲からない。絶対に儲からないと言っているのではなくて、パソコンを使う人間の能力が高くないと、パソコンを使いこなせないということですね。これは、パソコンに限らず相場をする上で必要となる能力全てに言えることです。
 お配りしてある資料の中にも『無知無能な肴は敗残肴となる』と書いてあります。無知というのは知識が無いことであり、この知識というのは本を読めばわかります。例えば、今申し上げた-システムの併用は確率を低下させる-といった『ギャンブラーの誤謬』に関しての知識は、もうわかったと思います。しかし、実際にはこの『ギャンブラーの誤謬』自体を知らない人が多い。
 今、あちこちでいろいろな相場分析や予測のソフトを売っています。その中には、四十何種類ものいろいろな指標が入っているソフトがありますが、それではかえって迷うばかりで駄目だろうと思います。その上 「この指標とこの指標とを併用して‥.」なんていうと、先程申し上げたように掛け算になりますから、どんどん確率が低下していきます。
 皆さんがゴルフを教わる場合、下手な人に教わらないですよね。上手な人に教わるものです。また、教え上手、習い上手、習い下手といろいろな言い方は有りますが、やっぱり下手な人に習うのはイヤだと思います。私は「自分は随分努力した」と先程申し上げましたが、本当によく本を読みました。解らないことは、いろいろな人に教えてもらいました。それでも、損した人に教わるのはやっぱりイヤでした。イヤっていうより、そんな人はすぐに底が見えてしまうから「何だ!この人損しているくせに、口だけ上手いじやないか」と、言いたくなってしまう。
 ゴルフの場合はやっている姿が見えますから、
 「あの人の球はビューと飛ぶから、あんなふうにやればいいんだ」とわかります。
 ところが相場の場合は、人がどのように売買しているのか見えませんから、我々はツテを求めていきます。ツテというのは、例えば、先程申し上げた山種さんとか、鈴木隆さんとか、或いは、晴披さんとかのことですが、そういった人達がどのような売買をしたのかを調べてみるわけです。そして、その記録を実際にに見てみて「なるほど!」「すごい!」「こうやっているのか!」と参考にして自分もやってみるわけです。これがなかなか出来ないんですけれども、とにかく真似しようとします。ところが、基礎が出来ていないと、真似だけやってもダメなんです。その基礎をどうするか?それは休憩時間の後で具体的なことをいろいろとお話します。

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