2004-11-03

My Trading Life (2)

最初のトレードは大失敗だったが、相場環境が良かったためだろう、それからは連勝続きだった。銘柄は、株式関係の雑誌や新聞を見て、多くの評論家の先生が推奨している銘柄から選んでいた。日経新聞や雑誌の記事の切り抜きスクラップもやってた。

北浜先生や松本先生、木村佳子先生などの本を繰り返し読み、印象に残った言葉には横線を引いたりしていた。そんな自分を思い出すだけでも恥ずかしい。もう、とことん馬鹿である。救いがたい馬鹿である。

北浜流一郎の本を、横線引きながら、なるほどなあと感心しながら読んでいたのである。それが僕の青春の一ページなのだ。出来れば記憶から消してしまいたい、しかし決して消すことの出来ない悲しくて、とほほのエピソードである。
でも、それが株の「研究」であり、「勉強」だと思っていた。当時は。

評論家の先生方の推奨銘柄を買っていくと、たいていの場合、目先のてっぺんで買ってしまうことになる。
その時は後悔して、そうしたトレードは止めようと思う。自分の頭で判断しなければいけないのだと思う。
しかし、株価はその後しばらく調整した後、また急騰するので、効率は悪いものの結果的には利食いが出来た。
そして、また、雑誌を読み、評論家が推奨している銘柄がやはり良さそうに見えてきて、また飛びついてしまうのだった。
だいたい、こうした評論家の先生に頼る以外、誰に投資法を聞けばよいのだ。株式投資などとは全く無縁な世界に生きていたので、相談する株仲間もいなかったし、自分で考えようにも何を基準にどう考えればいいのか全く見当がつかなかった。

株をはじめて思わぬ効果もあった。それまでアカデミズムの世界にどっぷり浸っていたので、僕は日本の経済とか個々の会社の業績とかにはあまり関心がなかったのだが、身の回りの商品を作っている会社名とかが気になりはじめた。

これまで大きな灰色のビルの連なりでしかなかった街並みが、ふいに、突然、ビルに書かれた一つ一つの会社名が見え始めた時の衝撃は忘れられない。

街がまったく違った風に見え始めた。これには本当に驚いたなあ!

同じ現実を見ていても、人によって全く違った見え方をするのだろう。株式投資をするかしないかで、世界が全く別に見えてしまうように。このことは認識についての僕の考え方を一変させた。

ある時、5401新日鐵にうまいタイミングで乗ることが出来た。連日、上場以来の高値を続ける。鉄鋼株は皆信じられないような大相場を演じていた。とりわけ川崎製鉄は千葉の土地の含み益を材料に狂乱的な高騰を続けていた。

連日、含み資産が少しずつ増えていく。とはいっても、まだまだ数千株単位のトレーダーなのだが、それでもバイトで一日頑張って稼ぐ金額の数倍の金額を株が連日膨らませてくれる。楽しい毎日である。
しばらくして、ちょっと株価が重たくなってきた。大丈夫かなと心配になっていた頃、日経の株式欄に「鉄鋼株に危険な匂い」という鉄鋼株の過熱しすぎを警告する記事が出た。案の定、その日、相場は下げて始まる。
これはもうやばいなと判断して、成り行きで逃げる。このまま暴落するのではないかという恐怖の中、うまく約定できているのを知ったときはほっとした。

そして、引け後、いつものようにテレフォンサービスで株価をチェックして仰天することになる。新日鐵はとんでもない高値で引けていた。

悔しかった!

悔しかったり、驚いたり、株式投資はそんなことの繰り返しだった。

しかし、自分の売値より高くなってしまった新日鐵に再度挑むのはプライドが許さない。絶対にそれは出来ない。翌日、新日鐵よりもずっと安くて、まだまだ上がりそうに見えた日立造船を買った。もっとも新日鐵より安いといっても、年初の安値と比べれば、日立造船株はすでに、異常なくらいの高い水準に達していたのだが。

そして、その日から、大型株は調整に入り、日立造船は僕の買値から100円以上も下がってしまうことになる。

しかし、そんな愚かなトレードをしていても、数ヶ月後には、日立造船は僕の買値を上回った水準まで上がり、余裕で利食いをすることが出来た。

株は永遠に上がり続けるかのようだった。

その年だったか、翌年だったか、年末にJラインでうまく儲けたのは、会心のトレードだった。
僕はその頃から、いくつかの銘柄には方眼紙に手書きで日足のチャートを書き始めていた。チャートを睨みながら売買のタイミングを計り、Jラインの押し目をつかみ、ほとんど最高値で売り逃げることが出来た。
Jラインと山下新汽船の減資合併による暴落のほんの数日前のことである。

こうして今、あのころのことを思い出しながらこの記録を書いているのだが、一つ一つの銘柄の、買ったときのだいたいの値段、売ったときのだいたいの値段、手がけた時期、その時の株価の動き方など、意外に鮮明に覚えていることに、結構驚いている。
今では、一週間前に買った株でさえ、買い単価や売り単価など、全く覚えていないのに!
きっと一つ一つの銘柄に対する愛着が今よりもずっと深かったんだろうな。
株を買った会社について、日経新聞などで良いことが書いてあったりすると、自分のことを褒められたようで、嬉しかったりしたものである。

なにはともあれ、トレードをはじめて半年後には、チャートを見ることの重要性、利食いのタイミングなど、株式トレードで大切なことが分かりはじめたような気がした。
含み損になっても決して投げてはいけない、株価はやがて戻るのだから。我慢我慢。焦ってはいけない。来年はもっとうまくやろう。そしてうまくやれるだろう。そう思った。



しかし、本当は何も分かってはいなかった。

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