2008-08-28

ジム・ロジャーズ氏インタビュー

ジム・ロジャーズ氏インタビュー(8/28実施)
■コモディティ市況について
原油
Q1:原油、ガソリンともに、グローバル経済の停滞による需要の減少と中東産油国からの供給増加による需給緩和、米国での先物規制強化の動き、米ドル高等を背景に大幅に下落しています。ロジャーズさんは今年6月のインタビューにおいて、巨大な油田が発見されない限り、1バレル=200ドルも有り得るとおっしゃっていますが、このお考えにお変わりはありませんでしょうか?

原油の見通しについて変わりはない。今年の6月以降、新たに大規模な油田は発見されてもいない。強気相場の中で原油の価格が一体いくらまで上がるのか、私には具体的水準の目処はないが、強気相場が継続し価格が上昇することは分かっている。また、この局面の中で原油価格が75ドルまで下落することもあるかもしれないが、その後また上昇に転じると考えている。
原油価格に限らず他の多くのコモディティ価格が大幅に上昇した。価格が上昇すれば通常調整があるものだ。原油の強気相場は1999年に始まり、それ以降40%から50%価格が下落したことが3回あった。マーケットとはそういうものだ。40%から50%下がった時、いずれの場合にも人々は強気相場は終ったと考えた。しかし強気相場の終わりでなかったことは、言わずもがなであろう。今回も同じことが起きるに違いない。誰かが巨大な油田を発見するか、あるいは世界的な経済の崩壊が起きるまでは、原油の強気相場は続くだろう。もしも世界的な経済崩壊が起きたとしても、株式よりコモディティを保有していた方が良いだろう。


Q2:金は、ドル高の進行や原油価格の急落等を受けて、1オンス=800ドル付近での調整が続いています。ロジャーズさんは、750ドル~800ドルまでの下落を予想されていましたが、これ以上の大幅な下落の可能性は低いとお考えでしょうか?
金はもっと値下がりするかもしれないが、話は原油と同じだ。1970年代には、金は600%値上がりしたことがある。その後2年間もの間、殆ど毎月値下がりし、50%近く下がった。そして市場参加者が皆退散した後に、相場は反転し、今度は850%値上がりした。繰り返すが、市場とはそういうものだ。市場は我々全員を金持ちにするようにはできていない。我々全員が大ばか者であるかのように見えるようにできているものだ。金がどれくらいの期間調整するかは分からない。750ドルまで下落するかもしれない。どうなるか成り行きを見守ろうではないか。

農産物
Q3:ロジャーズさんが昨年9月のブルームバーグのインタビューにおいて、小麦が高値圏にあるという予想されていた通り、小麦を含めた農産物は、年初および6月の強気相場の後、生育地における天候の改善や需給予測の緩和、代替燃料需要の後退等により大幅に調整しています。ロジャーズさんは、この調整がどの程度続くとお考えですか。また、中長期的な強気相場見通しに変更は無いとお考えでしょうか?加えて、現時点で投資魅力が高いコモディティをお教え下さい。

農産物価格下落の理由は、これも石油や金と同じだ。つまり市場には調整はつきものだということだ。市場が毎日、毎月、毎年上昇すると考える人は、このことを理解するまで投資すべきではない。短期間に急上昇した市場は、他の市場に比べて調整幅も大きいだろう。
多くの農産物の価格が大幅に上昇した。小麦の価格は一本調子で上昇した。その結果の一つとして、多くの農家が小麦を作付けするようになった。これが経済の法則だ。小麦の作付面積が増えた結果、他の農産物の作付面積は減少した。そのような農産物がより魅力的だろう。砂糖市場は未だに歴史的な低水準に落ち込んでおり、コーヒー、綿も非常に安い。歴史的に見れば、これらが有望な投資先ではないだろうか。

■世界経済について
ブラジル
Q4:ブラジルは豊富な人口、豊かなコモディティ資源(大豆・さとうきび、鉄鉱石など)、製造業の競争力向上等から今後も経済発展が期待されています。ロジャーズ氏はブラジルの株式・債券・為替の投資魅力についてどのようにお考えですか?また、ブラジル以外のラテン諸国で魅力的と思われる国があればお教え下さい。
私は現在ブラジルには全く投資していない。しかし、ブラジルはコモディティが豊富であり、コモディティが強気相場にあるので、今後数年は株式も通貨も何もかもがより魅力的になるだろう。ブラジルに投資するには色々な方法があるだろうが、私は怠け者で、よく勉強していないので、具体的に何に投資すべきか具体的に言うことはできない。ただ、ブラジルが多くの他国に比べて、今後の優れた投資先であることは間違いないだろう。
エマージング市場に多くの人が殺到し、買われすぎてしまったので、私は中国を除いて、エマージング市場への投資を全て引き上げた。その結果、現在は中国を除いてエマージング市場には投資していない。ペルーは資源が豊富な国であるため、以前私は多額をペルーに投資していた。ベネズエラやコロンビアも大変魅力的な投資先である。エマージング市場に大きな調整があり、その際、私が上手く再投資できることを願っている。

中国
Q5:オリンピックによる建設ラッシュ等の経済効果も落ち着き、また世界経済の減速、人民元高による輸出の減少などにより、中国の景気減速が懸念されています。中長期においては、中国経済が力強い成長を遂げる見通しに変化はないとしても、今回の一時的な減速はどの程度続くと思われますか?また、その減速がコモディティ価格にどの程度の影響を及ぼすとお考えでしょうか?

中国の株式市場には大きな調整があった。皆が株式を投売りするようなセリング・クライマックスが来ることを心待ちにしている。私は中国株を4月と6月に少しずつ買い増したが、セリング・クライマックスになればもっと中国株を買うつもりだ。
もしも、景気後退となれば、中国の企業の何割かが影響を受ける。例えば、ウォルマートと取引のある中国企業は影響を受ける。しかし、全く影響を受けることなく順調な経営をつづける企業も何割かはあるだろう。そういう企業を見つけられればと願っている。何故なら、もし中国に強気相場が来ればこのような銘柄が最も良いパフォーマンスをあげるからだ。いくつかの農業関連企業は、経済にどんなことが起きたとしても、素晴らしい業績をあげるだろう。そういう株式こそ購入すべきものだ。
世界経済がスローダウンすれば、中国経済全体も影響を受ける。中国政府は、ここ2年間経済を沈静化しようと努力している。政府は金利を6,7回、支払準備率を15回引き上げた。このような要因と先進国の景気後退が相俟って、中国の景気減速となる可能性はある。しかしそんなに悲観することはない。そうやって数千年に亘り、世界の経済は続いてきたのだ。当たり前のことだ。どれくらい景気減速が続くか私には分からない。中国が本当に景気後退に入るかもしれないが、定かではない。中国の多くの内部要因はポジティブだ。私はそれほど賢明ではないので、中国の経済が景気後退あるいは不況になるかどうかは判断できない。米国は19世紀には15回の不況を経験し、非常に困難な状況が繰り返された。しかしその後、米国が素晴らしい成長を遂げたことは、改めて話す必要はないだろう。

ロシア
Q6:グルジアにおける衝突が、世界経済に多大な影響を及ぼすとお考えでしょうか?また、今回の衝突は、米国とロシアの新たな冷戦の始まりなのでしょうか?

グルジアにおける衝突を通じて、ロシアは、より自己主張をするようになった。今回戦略的な成功を収めたロシアは、今後もっと積極的に主張するだろう。これは残念なことだが、ロシアが反応した理由は、米国がロシアを挑発しロシアの反感を買い続けてきたからである。米国はチェコにミサイルを配置し、ポーランドにもミサイルを配備しつつある。喧嘩を売るのでなければ、そんなところにミサイルを配置すべきではなかった。米国は、ロシアに盾突く行動を取ってきたので、ロシアがそれに反応しているのだ。コソボは今や独立国だ。ロシアの同盟国であるセルビアが米国に付け込まれたのを見て、ロシアは我々も同じことをやるのだと言った。今回、米国はひどい間違いを犯した。国務長官は、今回の事件が起きる2週間前にグルジアにいた。彼女はグルジアの人々に対して、「心配は要らない。もしグルジアが自治区に対して何か行動を取るならば、米国が支援しよう。ロシアは何も手出しできない。」といったのだ。しかし、実際には米国はグルジアを支援できないまま、グルジアは自治区に侵入した。そしてロシアは国務長官の発言に反して反撃した。
米国は、グルジアに対して何事も起きないだろうと言った。米国は再び過ちを犯し、そしてロシアに付け込まれている。ロシアは、殆どの国が本気でロシアに対抗できないことを分かっている。そして、これがロシアの復活に拍車をかけている。冷戦か否か。私にはわからない。しかしロシアは、今や資本主義国なので、かつてのような冷戦にはならないだろう。米国はロシアを挑発している。米国はNATO(北大西洋条約機構)を拡大している。何故いまだにNATOが存在するのか私には理解できない。唯一理由があるとすれば、それはNATOがロシアに対抗することである。これがロシアの感情を非常に悪くしている。残念ながら世界は再び平和にはならないようだ。世界は数千年にわたり戦争を繰り返してきた。私も戦争がないことを望むが、常に戦争は起きるのだ。

欧州
Q7:中国と並んで、欧州も景気減速の兆候が強くなってきています。今後の欧州経済の見通しをお教え下さい。もし欧州経済が本格的に減速した場合、コモディティ需要の減少が懸念されます。需要減少がコモディティ価格に与える影響をお教え下さい。

米国で発生した諸問題が欧州に波及している。米国の経済規模は世界で最も大きいので、米国と取引関係のあるものは誰でも米国から影響を受ける。欧州も例外ではない。私は欧州にも多少投資しているので、私の投資にはあまり大きな影響がないよう願っている。繰り返すが、投資における成功の秘訣は、市場が悪い時に上手くやっている業種や企業を見つけることだ。それらは市場が強気相場に転じた時は、最も高い投資成果をもたらす。私は株式を売るのは好きではないし、通常は余程特別な理由があるか、又は景気循環サイクルに大きな変化がなければ売ることはない。私は欧州の通貨も保有している。もし株価がもっと下がれば欧州や他の地域の株式を買い増すつもりだが、世界中の経済や株式市場が問題を抱えているので、今はその時期ではない。
欧州の景気減速がコモディティに与える影響はもちろんある。世界の2大経済、米国と欧州の景気が減速すれば、需要に影響が出る。1970年代世界中の経済は、非常に困難な状況にあった。しかし、コモディティは非常に強気な相場であった。コモディティが需要と供給に左右されるので、今回も同じことが起きるかもしれない。もし、供給の減少スピードが需要の減少スピードを上回れば、あるいは、需要が横ばいで供給が減少すれば、70年代に起きたようにコモディティの強気相場となるだろう。コモディティは需給のバランスが崩れているので、株式を保有するよりもコモディティを保有した方がよいだろう。株式は世界中にあふれているが、コモディティは供給が切迫している。ここ25年あるいは30年以上、コモディティの生産を高めるための投資はほとんど行われていない。

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