2008-11-07

ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー概説

ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー概説①
ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー概説②
ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー概説③

以前の「ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ーのナゾ」は少々わかりにくいとのご指摘をいただいたので、ここに再度概説を試みることにします。

ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー・システムは、大雑把に言って次の3つの要素からなります。
①リターンの確率密度分布の非効率性を捉える統計的モデル
②リスク・リワードを最適化するポートフォリオ理論
③リスクを管理するルール

では順番に見ていきましょう。
①リターンの確率密度分布を捉える統計的モデル
これは前回のエントリーでも見たように、商品のリターンの分布はテイルが太いということを理解するということに尽きます。

図1を見てください。 これはある商品の銘柄の5日間のリターンのヒストグラムです。 プラスの側でもマイナスの側でもテイルが太くなっていることがわかると思います。 そして、この場合非常に重要なことは、人間というのは一般的に、確率的に発生する頻度が低い現象は、それを「起こらない」つまり確率ゼロもしくは限りなくゼロに近いと認識しがちだということです。
例えば実際には0.数%~数%の確率で発生する事象でも、自分の認知においてはその可能性を消し去り、発生しないかのような投資行動をとるのです。 これがダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー・システムの収益源泉の非効率性の由来です。 

実は数年前まではこのような非効率性のフロンティアは長期時間枠のトレンド、つまり確率密度分布のテイルにおけるトレードの他に、非常に短い時間枠のトレードにも存在したのです。 なぜならそれまではそのような短い時間枠のトレードについて詳細を知っている人はほとんどいなかったからです。 当時は多くのトレーダーがそれに着目して驚異的なリターンをやすやすとあげました。 しかし、その事実が大勢の人に知られるようになると、その非効率性は徐々に失われてしまったのです。

さて、対照のために図2を見てください。 これは20年分のUS$の対日本円のレートの5日間のリターンのヒストグラムです。 これは尖度が高くテイルが小さいことが見て取れると思います。 従ってFXにおいては商品とは逆にリバーサル狙いでいくのが基本的にはやりやすいのです。 しかしここで気をつけなくてはいけないことに、「FXがリバースする」という現象は非常に高い頻度で発生するために、人々の認知と実際の確率密度分布との間にズレが発生しにくいのです。 つまりそこにはなかなか非効率性が生まれないのです。
それどころか逆に、「小さいけれどもゼロではないテイルの部分」を「まったくのゼロ」であるとみなしてしまうところに大きな危険が潜んでいるのです。 今回の▲10%近い下落(10/20―10/27)はヒストリカルには▲6σ近いレアな現象です。 しかしゼロではありません。 ここに実はFXにおける非効率性があったのです。 しかもFXはほとんどの期間はコンソリデーションだが、走り始めるとトレンドが自己強化されるという特性を持ちます。 これに多くのFX投資家が捉まったのでしょう。

話を戻しますと、商品のリターンの分布においてはテイルが太く、人々がそれをなかなか認知しないために収益機会があるのです。 そして、このために値動きがテイルの部分、つまり「人々が潜在的に思っているよりも実は発生確率が高い領域」に値動きが入ったことを認識するためのモデル(シグナルといってもいいかもしれません)が必要になるのです。

それは昔であれば単なる長短の移動平均のクロスであったり、一定期間のチャネルブレイクアウトでよかったのです。 ただ、現在はそれらの概念は広く人口に膾炙しており、そういった単純なモデルでテイルを捉えることは難しくなっています。 そのためにトレンドフォロアーであるCTAは独自のトレンド認識モデルを持っているのです。

②リスク・リワードを最適化するためのポートフォリオ理論
さて、個別の銘柄でトレンドを認識できたとして、次に必要なのは多くの銘柄からなるポートフォリオを効率よく管理することです。 なぜなら、ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー・システムは、元々の定義により値動きの予測を行なわないこと、そしてポジションを分散させることによって何処かで発生するトレンドを捉えることが不可欠になるからです。 そのために適切なポートフォリオ管理をしなくてはなりません。

ところで、ここでいう「ポートフォリオ理論」とはマコーヴィッツの言うところのポートフォリオ理論とは趣を異にします。 なぜなら、フルインベストメントでロングオンリーの伝統的な運用と異なり、ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ーにおいては、ロングもショートも、そしてマルもあるからです。 さらに、株式のマルチファクター・リスクモデルと異なり、銘柄の特性が多種多様な商品においては、代表的な複数のリスク・インデックスにリスク成分を分解して認識するという作業も困難なのです。 

従って、一般的にはより単純化されたアプローチを取ることになります。 まず各銘柄に等しいエクスポージャーを取るために、ボラティリティに応じてポジションサイズを調整します。 これはヒストリカルな一定期間のボラティリティをそのまま使っても良いでしょうし、タートルズが使っているNの概念を用いてもよいでしょう。 

次に各銘柄間のリターンの相関性を考慮します。 しかし、これについてはメジャーなCTAの間でも異論があります。 つまり、相関性の高い銘柄において同方向にポジションを建てる場合、リスクを考慮してポジションサイズを落とすべきだという考え方と、そうする必要はないとする考え方です。 

ここで単純化のために2銘柄からなるポートフォリオを考えてみましょう。(2銘柄のエクスポージャーは等しいとします) 
銘柄Aの分散をVa、銘柄Bの分散をVbとすると、ポートフォリオ全体の分散は、Va + 共分散*2 + Vb で表されます。 ここで、相関係数は共分散を両銘柄の標準偏差で除して得られるので、銘柄Aの標準偏差をσa、銘柄Bの標準偏差をσbとするとポートフォリオ全体の分散は、σa^2 +相関係数*σa*σb*2 + σb^2 のように書くこともできます。 従ってもし2銘柄間の相関が非常に高い場合には、ポートフォリオ全体のポジションサイズは小さめにしなければならないとわかります。

しかし、ここで問題が2つあるのです。 まず最初は、もし上記の理屈を認めるなら2銘柄間の相関が高く建玉の方向が逆であれば、それぞれ独自に算出したポジションサイズよりも大きなポジションをとっても良い(取るべきだ)と考えるのが合理的とせざるをえなくなるのです。 そして2つ目の問題は、商品の相関性は短期間のうちに大きく変動するということです。 例えば、通常ガソリンと灯油、原油は原料とそこから精製される製品として通常は高い相関性を持ちます。 しかし冬季の灯油需要が高い時期にはガソリンは灯油と比べだぶつき気味になることがあります。 あるいは、地震等の理由により原子力発電所の稼働率が落ち、火力発電所の重油需要が高まれば、原油とガソリン、灯油との相関性が一時的に崩れることもありうるのです。 そして、こういったファンダメンタルな背景によって発生するトレンドはダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー・システムが捉えたいと意図するもののひとつなのです。 

従って、銘柄間のヒストリカルな相関性を無視するという方針も十分成り立ちうるのです。 そしてこの場合も、リスク管理については別のルールの導入が必要になります。

③リスクを管理するルール
最後のステップとして、銘柄間の相関性を考慮してポジションサイズを調整する場合でも、そうでない場合でも、ポートフォリオ全体としてのリスクを管理しなければいけません。 プリミティブな方法としては、それぞれのポジションのボラティリティを建玉の方向性に関係なく絶対値を和することによって全体のリスクとし、それを一定以下に抑えるというやり方があります。 たしかにこれならポートフォリオ全体の真のリスクは、この値を常に超えないのですから、保守的な管理方法としてはそれでよいのかもしれません。

しかし、例えば、「ガソリン10枚買い+灯油10枚買い」というポジションと「ガソリン10枚買い+灯油10枚売り」というポジションが同じリスクを持っていると考えるのは少し難があります。 もっと言えば、「小豆10月限5枚買い+小豆12月限5枚買い」というポジションと「小豆10月限5枚買い+小豆12月限5枚売り」というポジションが同じリスクであるというのはあまりにも変です。

従って、ここではポートフォリオのリスクの管理方法として、一般的なVaRを用いることにします。 ところでVaRには、一般的に3種類の計算方法があります。 ヒストリカル・アプローチ、分散・共分散アプローチ、モンテカルロ・アプローチです。 個人投資家にとっては実務的に一番わかりやすいヒストリカル・アプローチを使うと良いでしょう。 つまり現在のポートフォリオのNAVをP(t)とすると、P(t)の日次リターンはP(n)/P(n-1)-1もしくはLog(P(n)/P(n-1))で表され、このリターンの時系列をさかのぼって一定期間観察することにより分布を把握します。 次に得られたリターンを順位付けしそのデータが示す階級値を持って、99%、もしくは95%の信頼水準におけるVaRを出し、これを一定以下にすることでリスクを管理するのです。

...こんな面倒なことはしたくないという場合には、単にポートフォリオの日次リターンのボラティリティを一定以下に抑えるという方法でも良いと思います。 ただし、リターンの確率密度分布に正規分布を仮定する場合にはリターンの分布の形状をヒストグラムなどで見ることや基本統計量を出すことによって、テイルが極端に太くないことを確認する必要があります。

以上が、ダイバーシファイド・卜レンドフォ口ー・システムの概説です。 今回はわかりやすかったかな?(^^;)

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