2008-11-03

ジム・ロジャーズ氏インタビュー

コモディティ市況について

1:世界的な景気減速等により、コモディティ価格は大きく調整しており、WTI期近物も70米ドルを割り込む水 準まで下落しています。また、ゴールドマン・サックスによるWTI原油相場見通しも、08年10-12月期は、120 米ドルから85米ドル/バレルに、09年は110米ドルから75米ドル/バレルに下方修正されました。世界経済の 混乱は長引くとの予想もあり、原油を初めとするコモディティ需要の減少を懸念する声があります。 前回(2008年8月)のインタビューにおいて、ロジャーズ氏は、75米ドル/バレルの水準の下落があったとして も、その後また上昇に転じるとのお考えでしたが、コモディティに対する需要懸念が高まる中、今後の価格 動向についてどのような見解をお持ちでしょうか?

私のコモディティに対する強気な見通しは全く変わっていない。皆さんも覚えているだろうが、原油の強気 相場は1999年に始まり、以来40%~50%の値下がりを3回経験している。それらの値下がりは、強気相場の 終焉ではなく、単なる価格の変動であり、その度に価格は上昇に転じた。今回の50%の下落は、4回目だ。 今は強制的にポジションを整理させられている時期で、どこかでコモディティ価格の下落は止まる。ファンダ メンタルズに関係なく、全てを売却することを強いられたのは、過去150年の間に8、9回しかなかった。コモ ディティのファンダメンタルズは、依然として非常に強固だ。実際、新たな原油の供給は行われていない。ま た、借り入れができないため、農家は肥料を施すことができないし、誰も新しい鉱山の開発ができない。この ようなことを考え合わせると、今後コモディティの価格は上昇する。ご存知かもしれないが、国際エネルギー 機関(IEA:International Energy Authority)は、原油の供給が年間6~9%の割合で減少しているという調査 結果を発表している。単純計算でも数年後には、我々が非常に深刻な問題に直面することがわかる。このよ うにコモディティのファンダメンタルズは、今後更に改善が見込まれる。従って、現在の状況下で投資すると すれば、それはコモディティだけだ。

2:昨今のコモディティ市場への関心の高まりとともに、高リターンを獲得しているCTAが注目を集めていま す。ロジャーズ氏はCTAへの投資についてどのような意見をお持ちでしょうか?

ロジャーズ国際コモディティ指数™(RICI®)は、1998年8月から2008年9月までに317%のリターンを挙げて いる。一方、Barclay CTA指数は、81.80%のリターンだ。RICIは、CTAの平均収益の約4倍もの収益を獲得 した。他の手法よりインデックス運用が優れていることを様々な調査結果が示している。コモディティも例外 ではない。もし、非常に優れたCTAを見つけたら、お金を預けても良いだろう。しかし、今後どのCTAが上手 く運用するかは誰も分からない。

世界経済、日本経済について

3:米国、欧州による、金融機関への公的資金注入等の対応策についての評価をお聞かせ下さい。また、 昨今の金融危機の見通しと今後とるべき対応策についてもご教示下さい。

私は、日本が1990年代に犯したのと同じ誤りを米国やヨーロッパの政府もまた犯していると思う。日本は破 綻を受け入れることを拒絶し、体力のなくなった企業を残したため、簡単な問題を解決するのに長期間を要 した。破綻する企業は破綻させるべきだったのだ。今回の米国もヨーロッパも同様だ。 強者が、競争力のない弱者から資産を譲り受け、最初からやり直すことが今回のような状況下では本来行わ れるべきだ。ところが実際には、競争力のない弱者が強者から資金の援助を受け、そして強者と争っている。 これは経済的にもモラル的にもよろしくない。政治家がモラルを懸念しないことは知っているが、不適切な経 済政策であることは間違いない。 次に政府が行うべきことは、救済を中止し、破綻している企業は倒産させることだ。すでに政府は、破綻企 業に救済を施し、混乱した状況を作り出してしまった。これは間違いであり、今後悪化するだろう。直ぐに止 めるべきだ。

4:中国の水源問題や、メラミン混入等による食の安全性などが問題視されています。ロジャーズ氏は中国 の未来は約束されているとの見解をお持ちのようですが、このようなインフラ上の問題が、中国の中長期の 成長へ与える影響についてどのようにお考えですか?

確かに、中国には問題がある。誰にでも問題はあるものだ。米国は、19世紀に15回の不況を経験した。南北 戦争があり、路上での惨劇も行われた。公民権は認められていなかった。米国は、このような様々な悲惨な 問題や深刻な問題を克服し、繁栄への道を進んだ。中国もまた多くの問題を抱えている。汚染問題はその 一つだ。水の問題は中国では深刻だ。しかし、これらの問題は全て一時的なものだ。中国も米国と同じよう に問題を克服し、発展の道を歩むだろう。

5:今回の世界的な株安により、日本株の過剰な割安感が目立ちます。ロジャーズ氏は現在、日本株への 投資についてどのようにお考えでしょうか?また、日本経済の見通しにおいて、危惧されている事柄はありま すか?

米国よりも日本に投資したいと思う。私は、今がコモディティ投資の絶好の機会であるので、コモディティを 買っているところだ。歴史を通して、このような状況にあるとき最も優れた投資先は、ファンダメンタルズが損 なわれていないものだ。そして、今日ファンダメンタルズが悪化していないのは、コモディティだけだ。前にも 言ったように、新たな追加供給がないため、コモディティは強気相場にある。そういう訳で、私は、現在、株 式よりもコモディティを買っている。もし、株式に投資するのであれば米国よりも日本を選ぶだろう。

通貨について

6:イランやベネズエラが原油取引時に米ドルでの決済をやめるなど、基軸通貨としての米ドルの地位が低 下しつつあります。米ドルもかつてのポンドのように、基軸通貨として成り立たなくなるのでしょうか。そうであ れば、今後の基軸通貨として可能性が高いものはどれでしょうか?

米ドルが、その基軸通貨としての地位を失いつつあるのは、疑いのないことだ。英ポンドの衰退と同 じ道を辿るだろう。現在は、米ドルの売りポジションの解消のため、一時的に買われているが、10年 後、15年後あるいは20年後には、基軸通貨の地位を失うだろう。しかし、どの通貨が米ドルにとって 代わるかは分からない。もし、今日米ドルに代わる通貨を求めるのであれば、それはユーロだろう。 しかし、ユーロが15年後に存在しているかどうかわからない。5年後、10年後の基軸通貨が何かは分 からないが、15年後には人民元かもしれない。しかし、人民元は封鎖貨幣なので、今それを論じる のは現実的ではない。

7:Bloombergのインタビューにて、日本円、スイスフランに対して強気であるとのコメントを拝見しましたが、そ の魅力をお教え下さい。

キャリートレードは、必ず巻き戻されるので、私はスイスフランと日本円に強気だ。今、誰もがポジションを解 消することを強いられている。ポジションの解消が続く間は、日本円の上昇は続く。スイスフランは、日本円 程は上昇しない。何故ならスイスは他国と同じ誤りをおかしつつあるからだ。政府が金融機関を支援し始め ているのだ。これは、私の人生でも初めてのことで、スイスフランは売らずに依然として保有しているものの、 心配している。 今後、円の急上昇がどれくらいの期間続くのかは分からない。日本円は、多分、過去の最高値まで届くだろ う。非常に多くの人が円キャリートレードを行っているので、80円/米ドルまで行くだろう。キャリートレードの 巻き返しの後に何が起きるか、今の時点では分からない。しかし、キャリートレードが全て巻き返されるには 長い時間がかかるので、それを懸念する必要はない。

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