2008-11-07

投資信託の制約

投資信託の怪5(プロの船員が乗っているのにタンカー座礁のナゾ)

多くの個人投資家の方が考えているのと違って、ほとんどの機関投資家の運用というのはなかなか不自由なものだ。 例えて言うと大型タンカーとか大型貨物船を運航しているようなものなのだ。 この場合、ある地点から別の地点に荷物を安全に運ぶことを目的としているのだが、海には気象や海流の変化があるし、ところによっては海賊は出るし、場合によっては敵国の軍艦に大砲をぶっ放されることもありうるしで、危険がいっぱいなのである(>_<)。 

そして大型船のゆえに、こうした急激な外乱に対応するのは実に苦手なのである。 しかも船の性能や船員の錬度にはばらつきがあり、自動航行をセットした後はロクにワッチに出ない船もある。 だから船が座礁し始めて初めて危険に気づき、大慌てで舵をきるケースが続出するわけだ(笑)。 

もちろん、きちんとしたワッチと迅速な判断により、即座に回避行動に移ることができる船もあるが、船体が巨大であれば回頭するまでに長い時間がかかってしまうのである。 その意味ではモーターボートを操縦しているような感がある個人投資家の投資行動は、変化に対応するという意味では極めて有利なのだ。 
 
ところで、ここでは機関投資家の運用を輸送船に例えたが、投資信託の運用の場合はもっと自由度がないのである。 なぜなら、運用の細部の99%は約款やオファリング・メモランダムで縛られているからである。 例えていえば、出航前にインストールされた決め打ちのプログラムで、大型のタンカーが自動操縦されているようなものなのである。 そしてそのプログラム(約款など)を選んだのは受益者である一般投資家なのである。

もちろん航海士であるファンドマネージャーは、ワッチにも出るし船体の整備もする。 状況に変化があれば刻々と報告をするし、献身的に安全な航行のために働く。 しかし、彼にできることは非常に限られているのである。 いや逆に余計なことをしてはいけないのである。 船の航行は目論見書に開示された運用計画に既に記述されているからである。 それを逸脱することは絶対に許されない。 

だからこのままでは船が座礁するとわかっていても、そのまま浅瀬に突っ込んでいかなくてはいけないし、前方にハリケーンが待ち構えているとわかっていても、彼にできることはせいぜい積荷を縛るロープをきつく縛りなおすことぐらいなのである。 船の行方は既に受益者である投資家によって選択・プログラムされているのだから手出ししてはいけないのだ。

この点は一般投資家の間で大きく誤解されている。 投資信託のファンドマネージャーは運用のプロフェッショナルだからありとあらゆる手を使って危険を回避してくれるだろうと考えるのは大きな間違いなのである。 彼に許されているのは「船にこんな危険が迫ってますよ!」と投資家に報告したり、積荷の点検をしたりすることぐらいである。 

浅瀬を前にタンカーの航行プログラムを止めて船を停止させたり、ハリケーンを回避するために180度回頭させたり、乗り込んできた海賊と武器を持って闘ったりなどはしないのである。 いや、してはならないのである。 そういうルールなのだ。 それが投資家との間に結ばれた契約なのである。

だから、下げ相場の時は投資信託の基準価額がどんどん下がって当たり前なのである。 むしろ、マーケットが下がっているのに、損をしない投資信託があったら、何らかの規定違反が行われている可能性があるとして、一般投資家は金融庁にでも通報すべきなのだ。 あなたがそのファンドの受益者ならば「皆が損しているのに、自分が買っている投資信託は利益を上げている。絶対に許せない!」といって訴え出るべきなのだ。 

いや、冗談じゃなくてほんとにそういう仕組みになっているのだ。 運用する側はあくまで受益者との約束に基づいて粛々と運用するだけなのだ。 好き勝手な裁量は絶対に許されないのである。 あなたが買った投資信託という金融商品はそういうモノなのである。

なんとも奇妙な話だが、もし下げ相場でそんな奇妙なことに巻き込まれるのがいやならば、船の航行プログラムを止められるのは受益者であるあなたしかいないのだから、自分で判断を下し行動すべきなのだ。 つまりさっさと解約するのである。 ゆめゆめ損をファンドマネージャーや販売会社のせいにしてはいけない。 まあ、フツーの投資家ならば投資信託を買ったりしないだろうから問題ないとは思うが...(^^;)

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