2008-07-19

ジム・ロジャーズ氏インタビュー

原油相場の見通しについて

Q1:需給の変化を踏まえて今後の中期的な見通しをお聞かせ下さい。
過去40年以上の間に大規模な油田は発見されておらず、原油の供給量は増えていない。 問題は、原油の価格がどこまで上昇するか、どれくらいの価格水準で落ち着くかだ。世界中の油田での生産量は減少しつつある。市場には、いつも調整がつきものだ。1999年以来の今回の強気相場でも40%~50%の調整が3回あった。今後同じくらいの調整はあり得るだろう。しかし、強気相場はこれらの調整があっても続いている。強気相場は、今後も長期間にわたって続くだろう。
Q2:代替エネルギーについては、政府が補助を出して普及を進めていますが、どのようにお考えでしょうか?
多くの政府は、トウモロコシ、ヤシ油、砂糖などをエネルギーに変換して、人々に消費させようとしている。しかし、1リットルの燃料を作るのに、それと同じくらいのエネルギーを消費している。政治家は、農家や工場を建設した友人に報いることができるので、そうしたがっているのだ。そして、彼らは「我々のエネルギーを我々の農家から購入しているのだ」と、言うだろう。政治家は代替エネルギーが非効率的でエネルギーの問題を解決しないにも関わらず、そう言い続けるだろう。しかし、代替エネルギーは別の問題を引き起こす。食糧の価格が上昇し、大量の水が消費され、多くの問題が生じる。代替エネルギーが世界のエネルギーの問題を解決するとはとても想像できない。もし、農産物でエネルギー問題を解決しようとしたら、食べるものはなくなってしまう。代替エネルギーは農産物の価格が上昇するもう一つの要因だ。
Q3:原油や他のコモディティへの投機を規制する当局についての考えはいかがでしょうか?
私は、規制が行われないとは、断言できない。皆さんがご存知のように、政治家は歴史上、本当に馬鹿げたことをやってきた。彼らは規制を実施するかもしれないが、それはほんの一時的な効果しかもたらさないだろう。前にも言ったように、原油価格は40%から50%の下落を3回経験している。規制によって原油価格は下がるかもしれない。私には何とも言えない。もし、規制が行われても、それがエネルギーの危機を解決するわけではないし、我々の原油備蓄を増やしてくれるわけでもない。原油取引の場所が変わるだけだろう。もし、規制が実施されれば、ここ1世紀の間で初めて、新たな原油取引の中心地が米国以外のどこかにできるのではないだろうか。米国は100年以上にわたり、コモディティ市場の中心であった。もし、規制が実施されれば、世界中の他の国が原油取引において、米国にとって変わる絶好のお膳立になると言うわけだ。どのように米国から他の国へ原油取引が移っていくか私には分からない。東京にも香港にも原油の取引市場はある。シンガポールでもドバイでも何か始めようとしている。原油取引の市場は米国から離れ、恐らくどこか2~3の取引所に突然巨大な取引が発生するだろう。原油は世界のどこかで取引されなければならないのだ。もし政治家が米国で原油の取引を禁止すれば、取引は米国以外のどこかで行われる。もし、40%~50%も原油が下落すれば、世界中の機関投資家は投資機会を逃すまいと殺到するだろう。 ところで、もし規制が実施されれば、米国の年金は、インフレに抵抗することができず、深刻な状況に直面することになるだろう。インフレが深刻化している時に、「コモディティを買ってはいけない」と突然告げられてしまうからだ。米国人は物価の上昇と年金における購買力の両面からダメージを受ける。米国に追随する他の国がことによるとあるかもしれないが、世界中の全ての国が米国と同じように規制を実施することはないだろう。
Q4:ガソリン需要が伸び悩む中での原油相場の見通しはいかがでしょうか?
確かにガソリンの需要は減少した。米国の統計はガソリンの需要が横ばい、あるいは若干減少していることを示している。しかし、依然として米国では、ガソリンの供給が不足しているということを忘れないでほしい。もっと重要なことは、中国人の僅か4%しか車を保有していないということだ。彼らは米国人のように長い距離を運転しないかもしれないが、これから、インドや中国等のアジア諸国で、人々はより多くの自動車を所有するだろう。ガソリンの価格が上がれば、人々は消費を控え、その結果ガソリンの価格がしばらくの間落ち着くかもしれない。世界はいつもそういう風に動くものだ。 自動車1台あたりの走行距離は減少するだろうが、より多くの人が自動車を運転する。そして、石油精製の能力は不足しており、今後増えることないと言ってもいいくらいだ。前から言い続けているように、どの市場にも調整はある。今までもそうであったし、今後もそうだ。もし、ガソリンの価格が下がっても、精製能力は増えにくいので、強気相場は継続する。もし、何かが起きて原油価格が60ドル、70ドル台に下がっても、私は驚かない。誰かが巨大な油田を発見しないかぎり、強気相場が終わることはないだろう。

コモディティ全般について

Q5:これ以上コモディティの上昇が続けば、米国経済の鈍化を招く原因とならないのでしょうか。また、世界経済への影響はどのようにお考えでしょうか?
原料の価格上昇を最終商品の価格に転嫁できなければ、企業は収益を上げ難くなる。これは、世界経済のある部分に必ずや景気の減速をもたらす。1970年代に同じことが起きている。米国で、世界中で経済は停滞した。しかし、需要よりも早いスピードで供給が減少したため、非常に大きな強気相場になった。今回も同じことがあてはまるだろう。1970年代、原油はアラスカから、北海からメキシコから新たに供給された。今回、巨大な油田は発見されていないし、莫大な量の原油を供給する油田もない。事実、産油量は減少しているのだ。
Q6:農産物などの高騰を受けて、米国を始めとする各国議員などが投機資金及び投資資金を価格高騰の主因として槍玉に挙げています。今後のコモディティ市場への規制リスク等の価格への影響はありますか?
価格統制は、農産物だけではなく原油にも実施されるかもしれない。もし価格統制が実施されれば、価格は低下するかもしれないが、最終的には強気相場を一層長引かせることになる。米に価格統制が行われれば、人々は依然として米を消費するが、農家は米の値段が下がったので生産を減らす。その結果、状況は以前にも増して悪化してしまう。在庫は減少し、強気相場はより大きなものになる。
Q7:今後、コモディティ市況に影響を与えそうな新技術や新発見のうち、ロジャーズ®氏が注目されているものはありますか。
我々は、今後、太陽光、風力、原子力等の代替エネルギーを利用する。間違いない。原油価格の高騰は、これらの代替エネルギーを利用する動機付けとなる。しかし、長い時間が必要だ。もし、日本で全員が風力発電を使うと決定したとしても、直ぐには、風力発電は利用できない。風車などのインフラがないからだ。日本には1億2,500万の人口がいる。世界には60億人がいる。いつの日かそういうことが実現されるだろう。でもそのいつの日かは、これからずっと先の話だ。我々はこれまでに帆船、電気、ラジオ、電話、コンピューターなど、数知れない技術革新を行ってきた。1960年代には1,700メートル以上掘削することはできなかった。海底の掘削もできなかった。技術革新により1万メートルまで掘り進むことができるようになった。ダイヤモンドのドリルビットは、非常な高速な掘削を可能にした。北海やメキシコ湾等の海底も掘ることができるようになった。技術は非常に進んだが原油の価格は10倍になった。それは技術革新といえども、原油を市場に供給するには長い年月が必要であったからだ。
Q8:フランス政府は、2020年までに全世帯の屋根に太陽光発電装置を設置するという計画を打ち出しました。これについてどのように思われますか?
前にも言ったように、政治家は太陽光エネルギーを積極的に支援している。しかし、現在の原油価格では優位性を発揮できない。もし、原油価格が更に上昇すれば、太陽光エネルギーは原油に対して優位性を持つだろう。政治家は太陽光発電に今後も補助金を出し続けるだろう。太陽光発電、原子力発電の将来は明るい。2020年までには実現できるかもしれない。今までのコモディティの強気相場を振り返ってみると、18年から20年続いた。したがって、2020年までには今回の強気相場は終わるかもしれない。しかし2020年ははるか先のことである。フランスの7,000万人の人々が全員太陽光発電を利用できるようになるにはインフラの変更を含めて非常に長い時間が必要だ。太陽光発電、原子力発電の将来は約束されている。そしておそらく実現するだろう。しかし、顕著な効果となって現れるのはずっと先だ。今までの強気相場には終わりがあった。今回の強気相場もいつかは終わるだろう。しかし、当面の間、コモディティに投資してお金を増やすチャンスだ。

世界経済に関して

Q9:株安にも関わらず、コモディティ価格の上昇に伴う最終商品の値上げは止まらず、不況下の物価上昇であるスタグフレーション入りが心配されます。ロジャーズ®氏は米国や主要国がスタグフレーション入りする可能性についてはどうお考えですか?
今まさにスタグフレーションだ。間違いない。アメリカ経済はスタグフレーションにより、一層悪化するだろう。今後スタグフレーションは欧州にも、世界の他地域にも広がるだろう。一方、影響を受けない人もいる。もし、農業に従事していればスタグフレーションを気にかけず、多大な富を築くことができるだろう。もし米国でウォルマートと取引しているならば、影響を受けるだろう。したがって、影響を受ける人もいるし、受けない人もたくさんいる。世界はいつもこのようなものだ。ポイントは、どんな時にも上手くいくものがあるということ、そして上手くいかないものには近づかないということだ。
Q10:世界におけるアメリカ合衆国の位置づけが変わりつつあるとの認識をお持ちとのことですが、アメリカ合衆国のプレゼンスの低下を予想されているのでしょうか?それとも合衆国の存在が変質を遂げるのであれば、具体的にどのような変化が予想されるのでしょうか?
米国は間違いなく20世紀において世界を主導してきた。英国が19世紀において、他国を圧倒したのと同じだ。しかし、現在この状況が変わりつつある。30億の人口を有するアジアが勃興している。アジアの経済は、非常な速さで成長している。米国が昔世界経済の50%の占めていたと考えれば、今は43%くらいだ。これは単に例えで言っている数値で正確なものではないことに注意してほしい。米国の世界経済における優位性が変わってきたということを言いたいのだ。米国にはもはや他を圧倒する経済力はない。他国の経済力が上がったために、相対的な地位が低下したのだ。今は43%だが、10年後には36%になるだろう。繰り返すがこの数値は米国の相対的な地位の変化を示すものとして私がひねり出したものだ。もし米国が年2-3%の成長を続けたとしても、世界には5%、8%、12%で成長を続ける国があり、それらの国の相対的な重要性は増している。 オリンピックを見てみよう。50年前は米国とソビエトが金メダルの殆どを独占していた。しかし、現在ではそのようなことはない。他の国々は優れた運動プログラムを開発し、練習に励み、そしてオリンピックで金メダルを獲得するようになった。米国の地位が急激に低下しているか、あるいは相対的な低下か。それは誰にもわからない。10年後にまた聞いていただきたい。しかし、米国の地位は、10年前、20年前、40年前に比べて高くない。

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