2008-10-17

リーマンブラザーズ破綻がもたらしたもの

1ヶ月|松本大のつぶやき/マネックス証券
この1ヶ月で、世の中の風景が変わりました。毎日のつぶやきの中で変化については逐次コメントしているのですが、今日はちょっと分かりやすく、いつ何がどう変わったのか、私なりの解釈を復習してみたいと思います。

 重要なイベントは、9月15日と9月21日(アメリカ時間)に起きました。先ずは9.15。リーマン・ブラザーズが倒産しました。この会社が倒産すべきだったのか否か-それは私には分かりません。しかしベア・スターンズは救済され、リーマンは救済されなかった。このことが、金融機関の調達コストを激しく上昇させ、その後の一連の大騒動を引き起こしたのではないでしょうか。

 どう云うことかと云うと、債券投資家の気持ちになると分かります。「ベアとリーマンの債券を持っていた。そして片方の債券の元本は返ってきて、片方の債券は無価値になった。金融当局者の頭の中には、この二社を峻別する線が引かれているらしい。しかし彼らにとってはクリアなルールなのかも知れないが、自分にはよく分からない。」ワシントン・ミューチュアルとワコービアでも同じ問題が起きました。すると債券投資家としては、償還が100%になるか0%になるかが分からない以上、急いで全てを売るしかありません。毒入りの飴と安全な飴が混ざって入っている袋は、まとめて捨てる他ないのです。

 こうして金融機関等の債券は売られ、これら金融機関等の想定社債発行金利が急上昇し、資金調達コストが異常な勢いで上がりました。「リーマンを潰したのが悪い」のではないのです。潰すか潰さないかのルールが公に不透明であったことが悪いのです。その結果コストが上昇し、大混乱が始まったのだと思います。

 その結果、世界を代表するアメリカ第1位と第2位の投資銀行、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの調達コストさえ異常に上がってしまい、彼らですらシリアスな危機に直面してしまった。しかし彼らを潰してしまえば、流石に世界の金融市場、いやそれに留まらず世界の経済活動が極端な大混乱、恐らく機能不全に巻き込まれる。そこで仕方なくこの二社を、銀行持株会社と転換させ、政府が直接救済する道を作った訳です。これが、9.15からたった1週間後の、9.21でした。たった1週間です。なんと早いことか。

 ところが、これで全てが終わった訳ではありません。投資銀行が商業銀行になる-これが何を意味するか。今まで大きな自由を享受し、いわゆる「レバレッジ」を掛けて、自己資金の何倍もの額の投資をしていた投資銀行が、最早そのような高いレバレッジを掛けられなくなる。レバレッジは信用創造の一種です。レバレッジが下がれば、景気は悪化します。レバレッジの低下は、投資銀行が投資を減らすことだけを意味するのではありません。巡り巡って、個人の生活のレバレッジも下がっていくでしょう。お金がなくてもローンで車を買えたような人が、もうローンを提供してもらえなくなる。そうしてレバレッジ低下は景気の悪化やデフレに繋がっていく。これが今最大の懸念です。

 世界最大の消費国アメリカでデフレが起きると流石に厄介です。アメリカ政府は、今後、必死になって財政出動等をし、消費を刺激するでしょう。それでなんとかなるかも知れません。債券の世界では、少々専門的になりますが、イールド・カーブは立ってくるでしょうが。兎にも角にも、上記のようなことが、この1ヶ月で進行しました。2008.9.15、そして9.21。金融界にどっぷり浸かって生きてきた私にとって、この2つは、忘れられない日になると思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿